芽 生 え |
ある春の晴れた日。 どこからか、流れる小川の音と鳥のさえずりが聞こえる。 花の香りが風に乗り、あたたかい日差しが降り注ぐ街道。 そんななか空を見上げてあたしはガウリイに言った。 「綺麗ねぇ…」 ぴたり。 ガウリイの動きが止まり、彼の目はあたしを凝視する。 ガウリイはしばらく瞬きして心配そうに言った。 「熱でもあるのか?」 「………。」 あたしのこめかみがぴくっと動く。 ガウリイは気付かず続ける。 「え、違うのか!?じゃあ拾い食いでもしたか!?」 ぴしっ 「………あたしは犬か……?」 あたしの周りに溢れる殺気。 ガウリイも気がついたらしく顔をひきつらせるがなおも続ける。 「じゃ、じゃあ食べ過ぎか!?お前今日朝御飯バクバク食ってたからな…っていつも の事だが…」 ぶちっ 聞き慣れない何かがちぎれる音があたりに響く。 勿論あたしの切れた音だが。 「うふふふふ……」 あたしは笑う。 「ははは…なんか笑顔が恐いぞリナ。」 ガウリイは顔をひきつらせつつ、つられて笑う。 「うふふふ……」 「はははは……」 しばらく、ガウリイとあたしの笑い声だけが街道に響き。 「こンのっくらげぇぇぇぇぇぇぇ!!火炎球ッ!」 あたしは唱えておいた火炎球をガウリイに向かって思いっきり放つ。 勿論手加減はしてあるがこの至近距離、痛くないわけはない。 ガウリイはさっと顔色を変える。 「う…わわわわっ!?」 ガウリイは紙一重で避ける。勿論それは予測のうち! 「まだまだ炎の矢っ!」 「うわっ!」 ちっ外したか! 「なんの氷の矢!」 「まだまだ!」 またガウリイはかわす。 そして余裕が出てきたのかあっかんべーをしてみせる。 うわ、ちょっぴし殺意わくかも。 「ならこれはどうだ爆裂陣っ!」 ばどぉぉぉぉんっ 「おっと」 なんなくかわすガウリイ。 これまでかわすか!ならば! 「またまた火炎球!」 これまた最小限の動きで避ける。 ふふふ、かかったわね。 「ブレイクっ!」 火炎球がその場で炸裂する。 「うわっっ!?」 さすがにこれは予想外だったか、バランスを崩し仰向けに倒れるガウリイ。 その間にあたしは剣を抜き放ち、倒れこんだガウリイに向ける。 「勝負あったわね♪あたしの勝ちよ。」 にんまりと、あたしは笑う。 いや、はじまりは勝負だとかそういうもんじゃなかったのだが、ムキになって魔法 ぶっ放すうちに口喧嘩というよりもただの勝負になってしまっていた。 「ずるいぞリナ、俺剣抜いてないじゃないか〜。」 あたしは剣を鞘にしまいながら抗議する。 「なによ〜じゃあ剣抜けばよかったんじゃない。」 「そりゃそーだけど……」 そしてガウリイは何か言おうとして、やめた。 「何?」 「いや、何言うか忘れた。」 あたしは苦笑する。 「つくづくくらげよね。脳味噌ゾンビとタメはれるんでしょ?」 「人をなんだと思ってんだよ〜…」 「脳味噌くらげの剣術バカ。」 「あのなぁ〜」 ガウリイは視線を前に向ける。寝転がっているので空に、だが。 「ああ、確かに綺麗だな〜…お前さんがいうのもわかるよ。」 ガウリイはそういって微笑んだ。あたしはガウリイの横に座りこむ。 「でしょー?あたし、青空って一番好きよ。澄んだ青色の時が特に。そんな中で太陽 の光を浴びて歩くのが好き。」 「俺は―――青空も好きだけど、一番は夕日かなあ…燃えるような赤い色してる時が 一番好きだな。」 へえ、意外。 「どーして?」 あたしは尋ねてみる。 「お前こそ。」 「あたし〜?」 あたし?あたしは…何でだろ? 「なんでだろ、わかんない。ガウリイはどーしてよ。」 「俺もわからないな〜どーしてだろーなー……」 「変よねー好きな理由が自分でもわかんないなんてね。」 「そーいうもんだろ?何で好きになったかなんて。好きなことにはかわりないんだか ら、いいだろ?」 「ま、そうよね。」 「さ、こんなとこで時間潰してたら、野宿になるぞ。急ごうぜ。」 「そうね。行きましょっか。」 リナは気がつかない。 青空の青はガウリイの瞳の色で、太陽の光はガウリイの髪の色である事に。 ガウリイは気がつかない。 夕日の赤はリナの瞳と髪の色である事に。 二人の思いはまだ芽生えたばかり。 〜〜おわり〜〜 |