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一面の銀世界。視界の隅から隅まで白い世界。
……雪……
「雪だ〜〜………」
あたしは誰に、というわけでもなく呟いていた。
「雪だな。」
何の感慨もなくそれに答えたのはあたしの自称保護者、ふえるワカメの詰まったのー
みそくらげの言わずと知れたガウリイ君である。
「〜〜〜…ガウリイ。なんであんたはもー…少しは感動とか驚くぐらいしなさい
よ…」
あきれてふりかえる。ガウリイはいつも通りののほほーんとした顔でさも当然のよう
に言った。
「だって…見た事あるじゃないか。雪ぐらい。」
「あるけど…風情っていうモンがあるでしょ…冬の醍醐味だし。……寒いけど……」
あたしはそういって溜め息をつく。
「寒いのさえなけりゃね。」
「でも暖かくても雪は降らないぞ。」
うっ…ガウリイにしてはまともな答え。
「わかってるわよ。」
あたしはぷいっとそっぽを向く。
と、視界の隅に赤いもの。
目を凝らしてみると…雪に何かが埋もれているような…
「ガウリイ。ちょっと待ってて。なんか埋まってるみたいだから行ってくる。」
「何がだ?」
「なんか赤いんだけど…人の埋もれてる一部だったりしたら恐いから、行ってくる
わ。」
あたしはそれだけ言うとガウリイの答えも待たず雪の中を駆け出した。
ハァッ
あたしは大きく息をつく。
結構…ハードなのよね。雪の中全力疾走って。
赤いものは…ただのマフラーだった。どこかの子供か誰かが落していったのだろう。
そのマフラーは真っ赤ではなくセピア色。
あたしに見えているのは白銀色とセピア色だけ。
ずきり……
胸が、疼く。
忘れていた、痛み。
何でだろう。これを見ると胸が痛む。

―――あ……

「リナッ!」
セピア色と白銀色だけだったあたしの視界に入る優しい金色。
「ガウリイ……」
彼の青い瞳はあたしを見ると安堵にかわった。
「よかった…。なかなか帰ってこないと思ったから……視界も急に悪くなってお前の
姿が雪で隠れちまって……どうした、リナ?」
「あ、ううん。何でもない。埋もれてたのコレだったわ。骨折り損のくたびれ儲けよ
ねぇ。」
ガウリイはマフラーを見ると顔をしかめた。
「ガウリイ?」
「………俺が取りに行けばよかったな、コレ…」
「なんで?」
「また一人で辛い思いさせた…。」
「また?またって何よ。一人ってナニ!?辛い思いなんてしてないッ!」
「嘘つくなよ!これ見てあいつらを思い出したんだろ!?」
あいつら。
そんなの決まってる。
白銀色とセピア色が記憶の奥で、揺らめく。
「………ルークと、ミリーナを……」
ガウリイは言いにくそうに呟く。
「そう…だけど…でも『また』って『一人』って何よ。あたしは一人じゃ…」
「俺は…後悔してる。」
「何を?」
「ルークが魔王として現れた時…お前は辛そうだった…。でも俺が…あの言い草じゃ
俺がほとんど強制的に戦わせた。それでいて…最後までついていてやれなかった。途
中で怪我して倒れて…結局一番辛い仕事をお前だけに任せちまった。だから…俺はあ
の時戦わせたこと後悔してる。」
ぱしんっ
銀世界に響く高い音。
あたしがガウリイの頬を思いっきり叩いたのだ。
「ばか!」
あたしはガウリイの顔を見据えてしっかりと言い放つ。
「なっ…!」
ガウリイの抗議の声を完全に無視する。
「ばかばかばかばかばかっ!」
「なんだよお前…!俺が真剣に…!」
「だからばかだって言ってんのよ!
戦ったのは強制的なんかじゃなかったわ!
あたしの意志よ!全然あんたが気に病む必要なんかないでしょ!?」
「でも…」
「それに…あんたが途中で倒れたことだってあたし全然気にしてないわ。
だってあんたがいなきゃあたしその前に死んでた。
あんた、戦ってる途中あたしを助けるために剣投げるつもりだったでしょ?
そんな自分の身が危険になるようなこと、普通の剣士には出来ないじゃない。
だからあんたがいてくれてよかったのよ。」
「でも結局俺は…」
ガウリイはなおも声を上げようとする。あたしは思わず溜め息をつく。
「そりゃあの時は辛かったけど、でもねぇ…!
あんたがいたから…あんたがいてくれたからあたし、あたし乗り越えられたのよ!
あんたが泣かせてくれたから…だから…―――」
あたしはそこまで言ってはぁっと息をつく。
「だから後悔してるなんて言わないでよォ…それじゃあたしといた時間も全部後悔し
てたみたいに聞こえるじゃない…」
あたしはそう言って下を向く。
「ごめんな…」
ガウリイはポンッとあたしの肩に手を置いた。
あたしが顔を上げるとガウリイの優しい笑顔があった。
「そうだよな。後悔してるなんて言わないよ。言うとしたら『一緒にいれて良かっ
た。』だよな。」
あう…何か恥ずかしい…
「そーよっ!もうっくらげ頭でそーいう複雑な事考えようとするからそういうことに
なるのよっ!いつも通りに何にも考えずにぼぉっとのほほんしときゃいーのよ!」
照れ隠しにぷいっと顔を背ける。
「でもな、辛いときは言ってくれよ?俺はお前の保護者だからな。」
「大丈夫よ。そんな繊細なココロなんてあたしの性にあわないじゃない。」
「でもなぁ……」
「それに。」
あたしは何か言おうとしたガウリイの前にぴっと指を突き出して言った。
「辛いことは一緒に背負ってくれるんでしょ?なら、大丈夫よ。これからも、きっ
と。」
そう言ってにっこりと笑う。
「そうだな。」
ガウリイもにっこり笑ってあたしの頭をくしゃっと撫でる。
「もぉっ!髪痛むじゃないっ!」
「…行こうか。」
優しい声。あたしもにっこり微笑む。
「そうね。コレの持ち主も近くの町の人かもしれないし。落し物預かり所にでも届け
ときましょ。」
あたし達はそう言って、また二人で歩き始めた。
セピア色のマフラーが雪の降る中をふわりと揺れた。

〜〜おわり〜〜