再 会 の 島
〜Gourry side〜







「はーっ、ホンットすごい人手ねぇ」
食堂を出て、リナがそう呟く。
確かに、ここはすごい人手だ。
森のほうへ行くことになったのだが、小柄なリナはちょっと目を離すとすぐ人ごみの中に飲み込まれそうだ。
「リナ、逸れるんじゃないぞ」
「わーってるわよ!大丈夫よこれくらい」
どこがだ。
そんな小さな体なのにな。
「そうか?リナって小さいから目離したらどっかいっちまいそうなんだけど」
「余計なお世話よ!…ったく…。て、あれ?」
「どうした?リナ」
オレの言葉に文句をいうリナ。ああ可愛い(はいはい
「…ガウリイ。アメリアとゼル、逸れちゃったみたい」
「え?あ、ホントだいないなぁ」
リナに言われて周りを見ると、一緒にいるはずのゼルとアメリアがいない。
「でもま、大丈夫だろ。アメリアと一緒にゼルもいるだろうから」
それに、ゼルも二人でいたいだろうし、な。
「ん…それはまぁ、そうだけど」
「それより、早く出ようぜ」
「ん、そうよね」
アメリアが少し心配なのか、迷ったように言う。
けど、オレの言葉に納得してくれたらしい。
こうしている今も、リナは人ごみに流されそうなのだから…




「…や、やっと出られた…」
しばらくして、オレとリナはやっと人ごみから出られた。
リナの息が少し上がっている。
疲れたんだろうな。
オレは心配になって、リナに尋ねる。
「リナ、大丈夫か?」
「ま、まぁね…なんとか」
嘘つけ。
こんなに息が上がってるだろうが。
「…リナ、もうちょっと人ごみから離れようか」
オレはそう言って、リナの手を取って森の奥の方へ進んだ。

わぁ…っ

後ろの人ごみの方から、歓声があがる。
もう、リナ達の言っていた幻とやらが出たのか。


「…ガウリイ、ここらへんで休もう?」
「ん、そうだな」
リナがそう言ったので休むことにする。
休憩場所は木の下。
森の中は真っ暗で、とても静かだ。
今はオレとリナの二人っきり。
二人っきり…二人っきり…ああいい響き(はぁと)
って、オレは一体なにを(汗汗

「…明り(ライティング)」

ぽぅ…っ

明り(ライティング)の光が夜の闇を照らす。
「静かね…」
「ああ」

本当に静かだ。
聞こえてくるのは川の音だけ。
オレとリナの二人っきり(はぁと)
ちらっ、と隣に座っているリナを盗み見する。
意志の強さを思わせる深紅の瞳。
いつもいつも、前を見据えている。
あれだけの魔力がどこにあるのかと思わせるような華奢な躰。
…同じ同世代の子達よりも小さめの胸
これを本人に言ったらスリッパでどつかれて竜破斬(ドラグ・スレイブ)だろうな、きっと。
気にすること、ないのにな?
例え小さくともリナはリナ。
それでいいだろうに。



「…え?」
そんなことを思いながらリナを見ていると、いきなりそう呟く。
「どうした?リナ」
心配になって、声をかける。
「…リナ?」
けど、リナは答えない。
何かぼうっとした表情をしている。
いったい、どうしたんだ?
かと思うと、リナはふらっと立ち上がり走り出した。
「リナ!?」
急いで追いかけようとしたが、既にリナの姿はなかった。
一体、どうしたんだぁぁぁ、リナぁぁ!!









「おーい、リナぁー!!」

がさがさ…

「ったく…どこ行っちまったんだ?あいつ」

がさがさがさ。

リナが消えた森の中を、オレは草木を掻き分け進む。
一体どうしたんだ、いきなり走り出して。
このオレが行方の分からなくなるくらい速く走って。

みょ〜〜ん。

と、結構でかい蜘蛛が現れる。
「…………………」

シャッ!

無言でその蜘蛛を切り捨てる。
オレとリナとの間を阻むとは言語道断!当然の報い!!
に、しても…

「リナのやつ…どこいったんだ?」


…こうして一人でいると、いろんなことが頭の中で蘇える。
思い出したくもない昔の自分。

―――ずきん。

あの頃の自分を思い出すとどこがが痛む。
きっと、それは自分の心。
オレは怖いんだ。
昔の自分のことを。
昔自分がやったことが知られるのを。
そして――嫌われるのを。

「…リナ…」

ポツリ、と。
愛しい少女の名を呟く。


「―――!?」

ふっ、と。
突然、微かに感じていたリナの気配が消える。
変わりに、感じるのは男(笑)の気配。
男!?
なんでリナじゃなくて男なんだ!?
リナぁぁぁぁっっっ!!!!本当に一体何があったんだぁぁぁぁっっっっ!!!!!!
魔族の気配じゃないから少しは安心だが、それでも心配だ!
あいつはいつだって無茶をする。

…誰よりも、優しいから…


「――リナ!」
がさっ!
大きな茂みをのけて、前へと進む。
――そこにいたのは、空を見上げるリナの姿。
今の音を聞いて、オレの方に振り返った。
「あ、ガウリイ…」
――ぐいっ!
リナの姿を見て、我慢し切れなくて。
リナの腕を引っ張り、抱きしめた。
「!?」
リナが声にならない声をあげる。

―――イル…
―――イナクナッテナンカイナイ
―――チャント、ココニイル

「ちょ…ガウリイ!!??」
俺の腕の中で、リナが焦ったように言う。
「…た…」
「え?」
「…ちゃんと、いた…」
いきなり抱きしめられて、ちょっと暴れていたリナが大人しくなる。
「どこ…いったかと、思った…」
「…ガウリイ?」
「勝手に…どっか、行くなよな…」
きゅ、と。
リナを抱きしめる腕の力を少し強くする。
リナは逃げようとしない。
俺にされるがままになっている。
今は好都合だ。
…もう少し、こうしていたい。
リナがいないだけでオレは、こんなにも弱くなる。寂しくなる。
前のオレはこんなだったか?

…リナと出会ってからだ。
リナだけがオレをこんな風にする。
…だから、もう少し。


―――もう少し、このままでいさせてくれよな、リナ…