悪 夢







 チ…チ…チチチ…
「リナさん、リナさん、起きてください!」
「う…う〜ん…なによぉ。もう少し寝かせて…」
 あたしを揺り起こそうとするアメリアを手でどかしつつ、寝返りをうつ。
 おそらく外は朝。目をつぶってるからよくわかんないけど、瞼の上から差し込んでくる光からして結構すがすがしい朝みたい。
 普段ならすぐに起きてるんだけど…昨日はちょぉぉぉっとお宝の整理をはりきっちゃったからまだ眠いぃ…
「もうっリナさん、早く起きないと朝御飯なくなっちゃいますよ!」
「う〜?…いいわよぉ…お昼ご飯倍食べるからぁ」
「リナさん!」
 今日はやけにしつこいわね…しかたない。起きるか。
「リナさん!」
「わぁったわよ!起きる起きる!」
 ガバっと音を立てて起きあがる。
「あぁ〜もう、しつこいったらありゃしない。
そんなにやけにならなくても良いじゃ…な…い……」
 言葉の後半は、声がかすれていた。
 理由は…
「あ…あああああああああああああああなななななななななななななななななななな」
 言葉がうまく紡げない。
 ひっしにあたしの中にある理性やら知性やら常識やら…えとせとらえとせとらを総動員させる。  
「あ?な? 何言ってるんです、リナさん」
「あああああああああああああああああああああああああななななななななななななななななななななななな」
 えーと、昨日の夕飯はそこそこうまい宿屋の食堂でAランチとBランチとCランチをそれぞれ6人前づつぐらい食べて…備え付けの野菜をガウリイに取られそうになって何とか死守して…その後お風呂に入って部屋に戻って、おやすみって言ってアメリアが眠ってその後でライティングの光量を制御しつつお宝の整理をして…

 ぷちっ

「なんて格好してんのよアンタはああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 あたしは叫んだ。
 半ば涙目になって、その――めちゃくちゃ認めたくないけど――ナー…もとい某悪の女魔道士ルックをしてる高笑いをあげるあたしの金魚のふん『そっくりの格好をしている』アメリアを前にして。
 『人間というものは、極限の状態になると泣くか笑うかするものだ』なんて言葉を思い出しつつ。


「リナさん? どうかしました?」
「あああんたのその格好……!」
「これがどうかしましたか?」
 よくみると、アメリアは『あの格好』そっくりそのままの格好をしてるわけじゃなかった。
 いつものあの白いマントの下に同じく白の、ナーガが着てたのと同じタイプの服を着ているのだ。トゲトゲのショルダーガードをしていない分だけましって感じだ。それに、露出してる部分が多いせいか、彼女の胸が強調されていて、今更ながらに大きさのちがいをみせつけられる…
 ってそんなこと確認してる場合じゃなくてっ!!
「なんでったってそんな格好してるのよ!」
「なんでって…いつもと同じ格好じゃないですか」
 いんや、昨日はぜぇったい違う格好してたぞ。うん。
「だってそんな悪の女魔道士ルックなんて…」
「悪の女魔道士ルック?何言ってるんですか、これが普通の格好じゃないですか」
「…アメリアさん、リナさんどうです?」
 その声はシルフィール!よかった、これでなんとか…
 あたしはシルフィールがいる扉の方に顔を向け、
「シルフィール!ちょっとあんたからもこのバカむす…め…」

ずげげげげっ

 あたしはおんもっきり後ろにひいた。
 何を隠そうって隠しても意味ないけどとにもかくにも彼女が着ていたのも同じく悪の女魔道士ルックビキニタイプ!
 認めるのもしゃくだが、普段「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花〜」というイメ〜ジで売ってるシルフィールがそんな格好をしてると言うのは…はっきし言ってギャップが激しすぎるし恐すぎる!
 おまけになんで後ろに少女漫画みたいな花の絵があるのよぉ〜〜〜〜(泣)
「ななななななななななななななななな」
 一応言っとくが、『なんでそんな格好してんのよ!』と言いたいのである。
 もうこれは怪談の域に達する!あたしは精一杯彼女たちから離れて、壁にすがりつき、恐怖していた。
 だがひたすら混乱してるあたし(これが混乱しないでなんとする!?)をよそに、アメリアとシルフィールは話をする。
「リナさんどうしたんですか?あんな所で震えてて」と、シルフィール。
「それが…よくわからないんですよ。起きてわたしの顔を見たとたん、急にわけわかんないこと言い出して…」
「なんて言ったんです?」
「この服が悪の女魔道士ルックだとかなんとか…」
「ええっ!?」驚いた声を上げる彼女。
 あたしは荷物の中から服を取り出すと、
「こっこれがふつーの服ってもんでしょう!?」
と言って彼女たちの前にだす!
 一瞬目が点になる二人。
 そして次に彼女たちが言った言葉は…
「そうでしょう?リナさんこそ何言ってるんです?」
「へぇっ!?」うわずった声をあげるあたし。
「ほら、よく見てくださいよ」
言われて服を見ると…
「あああああああああああああああああああああああっっ!?」
 あたしの服は…あたしのあああたしのふくは…あろうことか悪の女魔道士ルックになってた!?
 それになんてこと!色が…色が…ぴんくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?
「どうしたんですか?」
 聞こえてきたのはフィリアの声。
「ふぃりあ…」
 震える声でしゃべりながら、おそるおそるフィリアの方を見る。
「リナさん?まだそんな格好して、どうしたんですか?」
 これまた同じくいつものマントの下に金色の、ボディコン姿のフィリアを確認したとたん。
 あたしの意識は闇の中へいやおうなく落ちていった―――
 どうか…どうかこれが夢でありますようにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!


「リナ、リナ」聞こえるのはガウリイの声。
「う゛…」
「オイ、大丈夫か?」これは…ゼルの声?
 薄目を開けると、ガウリイ・ゼル・アメリア・シルフィール・フィリアの顔がぼやーっとうかんで見える。
 あたし、眠ってた…? じゃぁあれは夢?
 そうか、あたし夢見てたんだ…
 そうよね。あんなの、夢に決まってるわよね。
 納得して、体を起こす。
「リナさん!よかった…急に倒れるんですもの…」とシルフィール。
 首をふるふるしつつ、あたしは言った。
「そうなの?その辺あんまり記憶がないんだけど…」
……………………………………………………
 あたしは一体何を見てるの?
 ねぇ、なんでアメリアが、シルフィールがフィリアが夢と同じ格好してるの? ガウリイやゼルガディスが、ビキニパンツなんてはいてるの?しかもガウリイがブルーのビキニでゼルガディスがいつものマントの下に緑のビキニを着ているの?ねぇ?ゼルガディスあんた、岩の肌を見せたくなくてんな白尽くめの格好してたんじゃなかったの?ねぇだれか教えてぷりーず。だれかこれが夢だと言ってぇぇぇぇぇぇ(泣)
「リナさん?」
ふぃりあのぼでぃこん。
「おいリナ、どうしたんだ?」
ぜるのびきにぃ…
「昨日お宝の整理をしてたみたいですから…ひょっとしてその中に変な魔道具とかあったんじゃ…」
「いや、それならリナだって気づくだろう」
あめりあにがうりいの……
「じゃぁ何があったんでしょう?」
しるふぃいるの…
「倒れたって言うお嬢ちゃん、大丈夫かい?一応気付け薬持ってきたんだけど…」
やどやのおばちゃんのぼでぃこん…
「じゃぁ、何かあったらなんでも言ってくれよ」
おっちゃんの…

ぼんっ

「どうしたんです?みなさんおそろいで」
 現れたのはゼロス。みんなとおんなじ……かっこうでぇぇっ
「きゃ〜〜〜〜〜〜生ゴミ魔族!!!!!!!
よくもおめおめと私の前に姿を現すことができたわねぇぇぇぇぇ!?」
「おんやぁ?そこにいるのはどこぞのう・れ・な・い ・骨董屋をやってるフィリアさんじゃないですか。お店はいいんですかぁ?あの力ばっかりの大男と悪知恵ばっか働く狐男にまかせておいてぇ?」
「なんですってぇぇ!?売れないはよけいです!
っていうかあの二人だってちゃんと働いてくれてますし生活していくだけの儲けもありますっ」
「おんやぁ?そうは見えませんけどねぇ?」
………何?
「き―――っあなたこそっどこぞの噂で魔族不足に陥ってると聞きますわよっ
こぉんなところで油売ってていいんですの?あっそうか!そうですわねっそんなこともわからない様な連中を手下にしているから、ロートル魔王なんてものになってるんですわね!」
「なっなんですかっ!?」
「あぁら、本当のことを言ったまでですわ。それとも、私の言ったこと、まちがってて?」
「き〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
何がおこってるのねぇ?
「◎▼♂◇・◆%&#・!●!!!!!!!!」
「△▲☆・●&%#♀!!!!!!!!」
 なんであたしはこんな所にいるの?
 なんでみんなこんな格好でいるの?
ガウリイもゼルもアメリアもシルフィールもフィリアもゼロスも宿屋のおっちゃんもおばちゃんもみんなみんななんで……
 これが世界なの?世間ってやつなの?あたしは世間知らずのバカだったってわけ?井の中の蛙?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ?
………………………………………………………

ぷっつりっ

「うっるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ」
 しーんと、あたりが静まり返る。
んっふっふっふっふっふっふ…
 体の奥から笑いがこみ上げてるくる。
 あたしはその場にゆっくりと立ち上がった。
「そうよね…はじめっからこうすればよかったんだわ…」
「あの…りなぁ…さん?」
「ちょっと…なんだか目が恐いような…」
 ゼロスにフィリア、
「お…オレはなんもしてないぞっ…」
「ガウリイさんっ一人だけ逃げようなんてダメですっ」
「そうだ!死ぬときは一緒…いや、まずお前がなんとかしろっ保護者だろうっ!」
「そうですっガウリイ様の尊い犠牲はっ…けっしてっ無駄にはしませんっ」
「犠牲ってなんだよシルフィール!」
「言葉の通りですガウリイさん!……cっ!」
 ガウリイにアメリア・ゼルガディス・シルフィールを順に一瞥すると、皆が一様に黙る。
「だいじょうぶよぉシルフィール、アメリア。みんな一緒に行かせてあげるからぁ」
「行くってどこにですか…?」
「シルフィール、いい質問ね。答えは…実戦でおしえてあげる」
「じゃぁ僕はそろそろ…」
「ゼロスっ!」
 と、こそこそ退散しつつあったゼロスに声をかけると彼は、びくんっと大きく震えた。
「いやぁねぇ、ゼロス…そんなにびびらなくってもいいじゃない…ただね、あたしにもわかったのよ…
アンタたち魔族が言う、世界を壊したいって気持ちが…」
「へっへぇ…それは大変うれしいことですねぇ…それでは僕はっ」
 あたしから逃げられるとでも思ってるのかしら?――まだまだあまいわねぇ…
フィリアから以前強奪…もとい譲り受けた神魔融合魔道具を持ってるこのあたしから逃げようなんて100万年早いっ
「ゼナファ・パレスっ」
「う゛っ…これは神魔融合魔法の魔道具!?フィリアさん、あなたなんてモノをリナさんに渡してんですか!?」
「ゼロスっ…一人で逃げようなんてした罰ですっ」
「だまれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
 もう一度、あたしは声を張り上げた。
はぁはぁはぁはぁ…
「んっふっふっふっふっふ…
みんなまとめて地獄におくってやるぅぅぅぅ!!!!!!!!
こんな世界なんて滅びてしまえぇぇぇぇぇぇドラグ・スレぇぇぇぇぇぇブ!」

ドッカァァァァァァァン

「だぁぁぁぁっなんでオレがぁぁぁぁぁぁ!?」
「なんでかしんないけどリナさんごめんなさぁぁぁぃぃぃぃぃぃぃ」
「俺は一体なんなんだ…リナのおもおちゃか?……ぶつぶつぶつぶつ…」
「ガウリイ様っ死ぬときは一緒ですっ」
「ヴァルガーブっお店は頼みましたよぉ〜〜〜〜〜あぁ神様、先立つ不幸をお許しくださいぃ…」
「ゼラス様ぁぁぁぁなんでこんな死に方…いえ滅び方ををしなくてはいけないんですかぁぁぁぁぁ」





「あああああああああああああああああああああああっ!!!」

ガバっ

「へっ?部屋?」
 さっきと変わらない宿屋の部屋。そのベットの上にあたしはいた。
 あたりを見渡す。――特に変わりはなし。
 起きあがって鞄の中身を見る。――これまた変わりはなし。
 窓の外を見る。――こっちもほんとに変わりなし。
「じゃぁ…今度こそホントに夢……?」
 安心すると同時に、あたしはその場にへたりこむ。
「よかったぁ…」
 あっ、なんか安心したら涙でてきちゃった。緊張の糸が切れたのかしら?
 でもホントによかった…うん。よかったよかった。
 もしもホントにあんな世の中になったりしたら…いいや、考えるのはよそう。悪い考えってあたるもんだし……

「オ―ッホッホッホッホオ――ホッホッホッホッホ」

………………
 あたしはゆうっくりと声の方を向いて…
「リナ=インバース!やぁっと見つけたわよ!さぁ、あなたがいなかった約3年分のご飯代っ耳をそろえて払って貰いますからねっ!」
「誰が払うかこの金魚のふん!あたしの静かな朝をかえせぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
 声の主に向かってあたしが攻撃呪文をたたき込んだのは…いうまでもない。