スレイヤーズ高校
〜Ｃｒａｚｙ　Ｒｅｎｄｅｚｖｏｕｓ（仮）〜







その姿を目撃した時、オレは自分の中を、言いようのないほどのどす黒い嫉妬心
と独占欲が支配するを感じた……

「―――リナ、乗るんだ！」
無理矢理強引に腕を引っ張ってリナを連れ出し、
―――ばたんっ
車の助手席のドアを乱暴に開ける。
「ちょっガウっっ!?!?!?!?!?」
オレのいきなりの仕打ちに混乱しているようだが、
―――とさっ…
有無を言わせずに助手席のシートに放り込み
―――ばたん！
荒々しくドアを閉める。
あまりに乱暴な仕打ちにリナが抗議もせずに呆然としている。
オレがこんな風にリナのことを扱うなんて思ってもいなかったんだろう……
当たり前だ。
オレはいつだってリナを最優先に考えて行動してきたんだから。
リナを傷つけないように、優しく……包み込むように……
だが。
自分でも乱暴だとは思ったが、抑えきれない。
そのまま運転席に座るとアクセルを踏み込み、車を走らせる。
めまぐるしく車体の横をする抜けていく風景。
いつもなら安全運転を心掛け、ましてやリナを乗せてるとなれば優しく慎重に運
転するのだが、今日の運転は乱暴だった。
スピードも早い。
シートに身体がめり込むような錯覚さえ覚えるほどのスピードをオレは出してい
た。

憮然とした表情のまま、どれくらい走らせただろうか……
漸く我に返ったリナがオレを睨みつけ、怒りを押し殺して口を開く。
「何考えてんのよ!?
　誘拐よ、これは」
助手席でリナが怒り狂ってるが……もう知らん。構うもんか。
オレだって、怒ってるんだぞ？
一人で、こんな夜更けに、そんな無防備な格好で出歩いたお前さんを。
道行く酔っぱらいのオヤジが。いかにも軽そうな男どもが。
本性剥き出しの視線でリナを見ていたというのに……っっ!!
どうして惜しげもなくそんな姿を晒すんだ？
嫉妬心と独占欲に駆られるままに「見るな！　減るっ」って周りの男達を蹴散ら
して、「リナはオレの女だっ！」って叫ぶのは、簡単だ。
けどな……
そんなことすればお前さんは反発するだろうし、第一、言ったってわからないだ
ろ？
でもオレは、これ以上リナを他の男の目になんか、晒しておきたくはなかったん
だ！
ポケットに入れていたプレゼントを握り締める。
どす黒い感情がオレの体中を駆けめぐる―――
気が付けば、オレは衝動的にリナの細い腕を掴んで助手席に押し込んでいた……

―――こんな姿のリナを、誰にも見せたくない……
　　　あんな視線に晒させるくらいなら、いっそのこと―――

「停まりなさいよっ！」
リナの怒鳴り声で暗い思考回路から抜け出す。
オレは今、一体何を考えてたんだ？
オレは……リナを愛してる。
こんな単純な気持ちを隠しながら、担任だからと能書きをたれて、時には子供扱
いして誤魔化し続けてきた。
他のやつらの目もあるから。
たしかに、今のこの関係はひどく居心地のいいものだ。
ふざけてじゃれ合ってからかって……
毎日がすごく充実してる。
けど、新学期が始まった途端、なんだか疲れちまったんだ……
教室で「ガウリイ」ではなく「先生」と呼ぶリナを見る度に、なんだかリナを遠
く感じちまって……
もう終わりにしないか？
教師と生徒なんて堅苦しい関係は……
“先生”じゃなくて、ただの“ガウリイ”に変えたいんだ。リナの中のオレを。
だから……
オレは黙って他に車のいない深夜の高速で車を滑らせる―――
「帰してよ！」
帰らせる気はない。少なくとも朝が来るまでは。
昼間はリナの周りにいっぱい人がいてあんまり話せないから。
人気者だもんな、リナは。
だからせめて夜の間だけでもリナを独占していたい……
オレだけのリナでいてほしい……
仕方ないだろ？　リナに惚れちまったんだから。
オレの身勝手だってことくらい、自分でもわかってるんだが……
それでももう抑えきれないんだ。
「もういい！」
リナがドアを開け、飛び降りようとするのを悟って、急ブレーキをかける。
衝撃を予測して身構えてたオレと違って、リナは派手に前のめりになるが、シー
トベルトのお陰でフロントガラスに激突するようなことはない。
だが怖かったらしく、文句を言ってくる。
「あ・危ないじゃないっ！
　ダッシュボードに頭ぶつけたらどうしてくれんのよっ!?」
自分の行動を棚に上げて文句を言うリナに、オレも言い返す。
「危ないのはどっちだっ！
　こんなスピードで飛び降りたらどんなことになると思ってるんだ!?」
死んじまうんだぞ!?
リナが死ぬなんて冗談じゃない！
オレがどんなに心配してるか……お前さん、本当に気づいてないんだな……
「〜〜〜〜〜ガウリイが停まってくれないからでしょ!?
　そっちこそ急ブレーキなんてかけて追突なんかされたら
　どうする気だったのよ!?
　あたしはこんな所で先生と心中だなんてご免だわ！」
「オレはリナとだったら心中しても構わないぞ」
「なっ……」
真っ赤になって絶句してるリナが可愛くて、さっきまでの怒りが急速に萎えてい
く。
オレは再びアクセルを踏んで車を走らせた―――

リナの赤くなった顔が落ち着いてきた頃、オレは漸く目的地に近づきはじめてい
た。
ここなら、夜景を見るには絶好の場所だ。
「……なんか今日のガウリイ、強気で強引よね」
どことなく呆れた顔でそんなことを言うリナに、オレは時計に目を走らせる。
今11：28だから……そろそろだな。
「見ろよ」
軽くリナに注意を促す。
「夜景が綺麗だろ？」
オレの言葉に窓の外に目をやったリナは、次の瞬間目を見開いた。
「う…わぁ……綺麗……」
「……だろ？」
思わずリナの方が綺麗だと言いかけて、やめる。
そんなこと言ったら照れるもんな、リナは。
だから代わりに別のことを言う。
「あの橋、１時間に２回、色が変わるんだ
　……ほら」
オレの言葉に合わせて橋を彩るネオンの色がブルーに変わる。
「ほんとだ……」
リナが車の外を流れる夜景に目を奪われてるのを横目に見ながら、夜景にまで嫉
妬している自分に苦笑する。
ずっとリナに嫌われないようにしてきた。
自分を抑えつけてまで。
だけど、自分でそれが嫌になった今夜は、押して押して押しまくろうと心に決め
た。
いささか強引に車線変更しながらオレは、今更ながらどうやってポケットの中の
物をリナに渡そうか考えていた。
そんなオレを不審に思ったのか、リナが顔を覗き込んでくる。
その顔がどことなく、不安げだ。
……心配するなよ。別に取って喰いやしないから。
苦笑して、左手で軽く頭を撫でてやる―――リナが安心するように。
「もうっ子供扱いしないでよっ！」
そう言ってるが、ちらりと見ればそんなに嫌そうには見えないぞ？
だいたい、すでに子供扱いなんてしてないんだけどな……
しばらくリナの頭を撫でながら運転していると、
「ねぇガウリイ……
　まだ怒ってる？」
恐る恐るといった感じでリナが訊いてくる。
「……う〜〜ん…どうだろうな……」
一方的に怒って独占欲に支配されて、乱暴なことしちまったからな……
正直な話、あんなに乱暴に連れ出したんだ、殴られても文句はない。
けど、こんな曖昧な答えじゃリナの神経逆なでしちまうかもな……
オレは意を決して口を開く。
「実を言うとな……
　許せなかったんだ。その格好が」
きょとんとした表情を浮かべるリナ。
……わかってないな、これは……
「こんな夜中にキャミソールだかなんだか知らんが、
　そんな無防備な格好して……しかもスカート短いし……
　道行く酔っぱらいのオヤジとか、軽そうな男がみんな見てたし……」
ここまで言ってもまだわからないか？
「……ひょっとして……」
リナが徐に口を開く。
おっ？　わかったか？
「この格好、変だった!?
　あ、似合わないとかっ!?」
―――がくっ
見当違いもいいとこだ。
思わずハンドルに突っ伏しちまったぞ。
……リナ……お前さん……鈍すぎるぞ……
こうなれば仕方ない。
これだけ言ってもわからないなら、じっくり教えるしかないよな？
ちょうどこの道を曲がった所に人気のない場所もあるし……
オレはゆっくりとハンドルをきった―――


その後、リナを家に送る頃には、「オレと二人きりの時以外はキャミソールは着
ない。もし着る時は上に何か羽織る」という約束をリナはしてくれたのだった♪


終わり（逃）





おまけ

……あ……そういえば……これ、渡しそびれちまったな……
ま、いっか……なんて言うかをきちんと考えてからでもいいよな？
言葉で伝えるのは苦手なオレだけど……
これだけは、きちんと渡したい。
オレの想いとともに……

―――ポケットには、オレの給料３ヶ月分を叩いて買った指輪がある……
　　　卒業式が終わったら、オレはリナに―――