KISSしよう







「……ん……」


…ガウリイと。
その…世間で言う“恋人同士”とゆーカンケイになってから、一ヶ月がたった。
それからあたし達は、前とはあまり変わらない、だけど少し前進した、そんななんだか微妙な日々をおくっていた。

「…36回目」

短い、そんなキスのあと。
ガウリイが、あたしを腕に抱いて、ポツリと呟いた。

「…何が?」

まだ火照っている顔をあげて、訝しげにガウリイの顔を見る。
そこには、お日様のような笑顔をしたガウリイの顔。

「リナとのキス♪」

ぼふんっっっ!!

ガウリイの言葉に一瞬にして茹蛸になるあたし。
…こ、こひつはよくもまぁこんなこっぱずかしいセリフをぬけぬけとっっ(////

「んな、な、な、な、ななななんでそんなの覚えてんのよあんたっっ!!」
「いや…だってやっとのことでリナと両思いになれたから…つい♪」
「『つい♪』ぢゃなあああああぁぁぁぁいっっ!!!んなこと覚えてなくてもいいわよっっ!!」
「えー、いいじゃないか♪」

こ、この男はぁぁ……っ(赤面)

「そんなこと覚えてるんだったらもっとマシなこと覚えてなさいよっ!ただでさえくらげ頭なんだから!」
「だってリナのことだし♪」
「………どーいうイミよ、それ…」
「だってリナのことならなんでも覚えていたいだろ?」
「なっ、なによそれ…んっ」
「…37回目♪」
「……くらげ……」

勝てない。
こういうときのガウリイには、あたしは絶対勝てない。
…なんか、悔しい。
悔しい。
いくらそう思ったところで、変わるわけじゃないけれど。

「そういえば、さ」
「ん?」
「俺、一回もリナからキスして貰ったことないんだよなー。いつも俺からだし」
「…へ?」

…突然、何を言い出すかと思えば…
そりゃあ、あたしからなんてしたことないけど…だって…ねぇ?

「……だから何なのよ?」

なんだか嫌な予感がして、明後日の方向を向いていた顔を再びガウリイのほうへ向ける。
さっきまでのお日様のような笑顔とはうって変わって、にんまりとした笑顔(?)――….
い、嫌な予感…

「なぁ、リナからしてくれよ♪」

あああ、やっぱりっっ!!

「い、いやよっ!なんでそんなこと…」
「………リナは、俺のこと嫌いなのか?」
「う゛…べ、別にそういうわけじゃ」
「じゃあ、リナからしてくれたっていいだろ?」

ガウリイが、捨てられた仔犬のような目をしてあたしを見る。
だーっ!!だからそんな目であたしを見るなっつの!
あたしその目に弱いんだから!

「なぁ、リナ♪」

…捨てられた仔犬のような目をしてるのに、語尾に『♪』がついているのは気のせいだろーか…?

「う゛ぅ…」
「リ―ナ♪」
「う゛う゛ぅ…」
「…いいだろ?」
「う゛う゛う゛ぅぅ…」

あたしは、とりあえず唸って返事を保留にする。
でも、それもいつまで続くか…

「リナぁ…」

唸ってばかりのあたしに、とうとうガウリイが情けない声をだす。
あーもう、大の男が情けないっ!…って、情けなくしてるのはあたしか。

「あーもう…わかったからその目するのやめて…」
「やった♪」
「…なによ、その『やった♪』って」
「さぁ、なんだろうな♪」
「ったく…」

異様にしつこいガウリイに、とうとうおれるあたし。
…やっぱり、こういうときのガウリイには、勝てない。

「…まったく、一回だけだかんね」
「ああ」

ムカ。
こういう時のガウリイには、その、なんていうか、“オトナの余裕”を感じる。
なんだか、変な感じ。
…きっと、こういうことに関しては、勝てないんだろうな…

「リナ?」

なかなか実行にうつさないあたしに、ガウリイが声をかけてくる。
――あたしは、火照った顔をあげた…