Heart to...







 気づいた時には、もう手遅れだと思った。
 それは、二人の関係も、かなり安定しはじめたころ。
 お互いに『信頼』が生まれ、お互いに頼りあえるようになったころ。

 一度安定したものほど、怖いものは無い。
 初めてそう思った――それは、あまりにも刹那すぎる、瞬間だった。
 
 

 ――夢みごこちの君の声。
    届くそれには俺だけが。
    特別感じる愛おしさ。
    ――叶う事なき、遠い『現実』――



「ガウリイ・・・どうしたの?」
 ・・・オレはその声に、意識をふと現実へ戻される。
 どうやらオレとしたことが、しばらくぼーっとしていたらしい。
 きょとん、としているリナにはっとしながらも、オレはパタパタと手を振り、
「ん・・・べつに、なんでもないさ。」
 『絶対にいえない真実』を胸のうちに秘めながら、静かにそう答えた。
 しかしリナは、そんなオレに向かって、なおも心配の声をかけてくる。
「・・・なら良いけど・・・。
 疲れてるんじゃないの?
 あんただって色々と大変だもんね・・・。」
「何が大変なんだ?
 何が?」
 真実を、告げた。
 ・・・べつにここの所、特に大変なことは、おきていなかったような気がする。
 ・・・そんなオレの様子にか、考えにか、彼女はそっと、ため息をつき、
「・・・別に、そのくらい自分で考えなさい。」
 さらりと言い放ち、そっぽを向いてしまったリナにつられるかのように、オレも遠
くに、視線をうつした。
 見れば、ここから小さく見える、街の情景。
 人が点々とし、思い思いに活動しているのが、よくわかる。
 風が吹けば、斜めに生える草が、さわりと音を立てて、ゆれる。
 背中に当たる大樹から、でこぼことした感触が伝わってくる。
 見上げれば、青く茂った葉の向こうにある、蒼い空。
 そして、街の向こうの藍い海。
 それらが、それぞれに『あおく』透き通っているのが、オレにとっては、なんとな
く物悲しいとさえ思えていた。
 ・・・それは、雲ひとつ無い、それこそ『快晴』という言葉が、ふさわしいような
日だった。

 ・・・旅先で、良い場所を見つける。
 そうすると必ず行われるのが、今行っているような『休憩』という行為。
 昔・・・と言っても、ほんの少し前まで、の話なのだが、その時は本当に元気だっ
たと思う。
 ・・・がむしゃらに進むだけだった旅が、今はなんとなく、『旅』という言葉より
も『観光』という言葉の方がふさわしい気さえする。
 ・・・それだけ今は、『休息』と言う時間が増え、次の街へ、村へと渡り歩くペー
スも、遅くなっていた。
 ――それが何故なのか――
 オレ達は、『お互いに』わかってはいない。
 オレにはオレなりの理由がある。
 また、リナにも理由が無いわけではないらしく、自分からこう言う時間を求める声
も多い。
 ・・・もちろんオレは、『彼女』についての感情を、まとめる時間がより多く欲し
いから。
 しかし、彼女は、と言うと――
 残念ながら、オレにはわからない。
 ただわかることと言えば、彼女も隣で、何かを思い悩んでいるようだ、ということ
くらいなのである。
 時々ふと、彼女のことを見つめると、大人びた表情で、その情景のもっと先――
 何処か、遠いところを見つめているような気がして、ならない。
 ・・・ただたんに、奇麗な景色を眺めたいだけ、というのが、休息の提案理由では
ないようだ。
 まぁ、それは、オレも同じなのだが。

 

 ――時は知らずに流れすぎ。
    何時の頃から想い寄せ。
    気づかぬ少女に手を伸ばし。
    気づけは虚空。
    それのみを掴まん――



 ・・・捕まえるようなことができない存在だった。
 それでも、かけがえの無い存在だと言うことは、確かだった。
 共に笑い合えることですら、何時の間にか『安らぎ』になっていた。
 ・・・それほどにまで、想いは止められないところまで来ていた――

「・・・なぁ、リナ。」
「ん・・・?」
 オレが彼女に声をかけたのは、日が沈み始めたころだっただろうか?
 昼下がりにここについたのだが、時間が経つのは、本当に早いものである。
 ・・・ずっと、ここまで。
 お互いは、一言も話さずにここに座っていた。
 ・・・何かあったわけでは、無い。
 ここのところ、ずっとそうなのだ。
 こういう場所に来ると、決まってお互い、黙り込んでしまう。
 そしてどちらとも無く、『さぁ、戻ろう』という話がもちかけられるまで、その沈
黙は、続く。
 ・・・今日それを破ったのは、オレの方からだった。
「・・・あの、さ。」
「うん。」
「――何か、思い悩むようなことでも・・・あった、のか?」
 ・・・こちらを向いた彼女は、目を丸くする――
 しかし、それも本当に、一瞬のこと。
 次の瞬間には、少し前よりも、大分大人びた笑みを浮かべて、
「・・・ううん、なんでもないんだ・・・。」
 少しだけ視線をそらして、そう、呟いた。
 
 ――それからしばらく、お互いの間に沈黙は続いた――

 

 ――今はまだ伝えきれない。
    この想いゆっくり整理し。
    何時か夜明けの夢の狭間で。
    全てを知りたい。
    君の胸内を・・・。
    そして、伝えよう。
    俺の想い、その『全て』を――



 それは、どちらかが切り出すまで、変わらないのだろうか。
 なんとなく、思わせぶりな気がしたとしても。
 ・・・それに勝る、『恐怖心』がある限り。
 ――何時まで経っても、想いは告げられないままだと。
 ・・・しかし本当は自分が、一番良くわかっているのかもしれない――



 気づいた時には、もう手遅れだと思った。
 それは、二人の関係も、かなり安定しはじめたころ。
 お互いに『信頼』が生まれ、お互いに頼りあえるようになったころ。

 一度安定したものほど、怖いものは無い。
 ・・・壊してしまえば。
 一度壊してしまえば。
 『同じ関係』は、二度とつくれないと、知っていたから――



 オレの想いなんかを、まるで全てむしするかのごとく。
 『関係』『存在』の意味が、変わろうとしている今でさえも。
 時は、静かに過ぎ去っていく――





 何時か『変われる日』と言うものは、
 オレ達の間にも、訪れるのだろうか――