金 魚 |
とある村で祭りが行われていた。 といっても小さな神輿が村中を回ることぐらいが昔からの伝統で他は夜店一色。 子供達のはしゃいだ声が一日中聞こえる、そんなお祭り。 そんな中でリナとくらげ男ガウリイは。 「ガウリイッ!それあたしのたこ焼っ!!」 「お前こそそれは俺のクレープだろっ!?」 やっぱりひたすら食べていた。 「隙あり!わたがしもらったぁ!」 「あぁ!俺の大切なわたがしをっ!そうくるなら…たりゃっリンゴ飴もらいっ!」 「な〜にすんのよこのくらげっ!あたしの大事なリンゴ飴ちゃんを〜〜〜!そんなら あたしは…!」 始終この調子である。まあこの二人にムードとかそういうことを求めること事態が間 違っているということだろう。 まあ、周りから見れば立派に仲のいいカップルに見えるということを、この二人は 知っているのかどうか…。 そうして数分後。 彼らは山のように持っていた食べ物類を争奪戦しながら食べ尽くした。 「う〜〜ん…まだ物足りないなぁ…」 といいつつ周りをきょろきょろ見まわすリナ。 どうやら食べ物屋を探しているようだ。 「まだ食う気かよ……まあ俺も物足りないけど。でもどーやってお前の腹の中にあん な量はいるんだ?どう考えても無理そうなんだが……」 尋ねるガウリイにリナはチッチッと指をふる。 「乙女の秘密よ。じゃあ何食べよー?ジャガバターとか?あ、かき氷もおいしそう よ。ああっ、でもあのアイスクリームも捨て難い〜……全部買おっ♪」 「……結局そうなるんだな。でも太るぞー」 「大きなお世話よ。それにいつもいくら食べても太らないもん。」 「どーなってるんだ?お前の体の構造……でもなぁ…太らないのはいいかもしれない が問題は身長と胸だよな。もう少し……」 ドガッ 鈍い音。リナがガウリイの顎に肘鉄を食らわせたのだ。 「〜〜〜〜〜っ!何すんだよぉ!」 「今日が祭りだったっていうことに感謝しなさいよ!普段なら竜破斬なんだからね !」 ぷいっとそっぽを向きスタスタ歩いていくリナ。 「待てよ〜悪かったって。」 ガウリイがそういうとリナはくるっとふりかえって悪魔の笑み。 「じゃあ今日はガウリイの奢りね♪」 「とほほ………」 ガウリイがはぁ…と溜め息をつく間にもリナはどんどん人込みに紛れていく。 ガウリイは慌てて後を追った。このままでは見失うと思ったからだ。 が、意外にすぐ、追いついた。 リナが立ち止まって、何かを凝視していたからだ。 「どした?リナ?」 ガウリイは視線をリナの見ている方に向ける。 そこには四角い箱に入った水にその中に浮かぶ赤。 「金魚すくいしたいのか?」 「ううん、そういうわけじゃなくて……」 リナは何かを思いついたようにいきなりそっちへ向かう。 「え、おいリナっ?」 「ちょっと待ってて。すぐ終わるから。」 リナは金魚すくいのおっさんと何かしきりに話していたが、リナが何かを渡して迷惑 そうだったおっさんの態度が急変する。 おっさんが立ち上がり取り出した大きな袋に箱に入っていた金魚を全部流し込む。 そうしてそれをリナに渡すと、おっさんは上機嫌で片付けをはじめた。 リナはおっさんから受け取った金魚入りの袋を持って帰ってきた。 「何してたんだ?」 「金魚の買占め。」 そうか、金貨かなんかを渡して買ってきたのか。 でも、リナが何で金魚なんか…? ガウリイはけげんそうな顔をして尋ねた。 「もしかして…食うのか……?」 「食うかっ!」 リナは思いきり否定した。 「じゃあ、どうするんだ?それ…」 「ついてきて。」 リナはすたすた行ってしまう。 仕方なしにガウリイはリナについて行った。 「ここよ」 リナが来た場所は池だった。 「で、だからどうするんだ?」 「あんた…ここまできてわかんない?」 「ああ。」 こくり、と頷くガウリイ。リナは溜め息をついた。 「逃がすのよ。この金魚を。」 「えぇぇぇぇええぇ!?」 ガウリイが驚愕に満ちた声を上げる。 「あのリナが…!?タダで……!?」 「喧嘩うってんの…?まあ、いいわ。柄じゃないのはわかってるから。」 バシャンッ リナが袋をそこにぶちまける。 夜のために真っ暗い池に赤い点は広がっていく。 「何でだ?」 「何が?」 「何でわざわざ金魚なんか買ったんだ?いつものお前さんなら絶対自分の損になるこ とはしないのに。」 リナは、苦笑したようだった。リナは上を見上げる。 「ガウリイは、この空の向こうに何があると思う?」 「空の向こう?そんなのあるのか?」 「………あたしは、あるって思うのよ。あたし達の住んでるみたいな世界とか、そう じゃない世界とか、無数に。でも、たぶん出られないんだと思う。今、空の向こうに は。だからあたし達は空に束縛されてるんだなって…そう思ったの。」 「それで、そうして…?」 「金魚はさ。水がないと生きられないじゃない?だから金魚は、水に束縛されてるの よね。だから水の中の世界しか行けない。なのにあんなに狭い場所に入れられてさ、 なんとなく少しでも広いところに行かせたかったの。」 「そっか。」 「姉ちゃんに世界を見てこいって言われて家からだされた時、何で…って思ったけ ど、今なら少し、姉ちゃんの気持ちわかるよ。」 ずっとゼフィーリアにとどまっていたあたし。 ゼフィーリアしか知らなかったあたし。 狭い世界しか知らなかったあたし。 この、金魚達みたいだったあたし。 だから、姉ちゃんも同じような気持ちだったんだろう。 少しでも、自由を知って欲しいと…… 「でも俺は、別に少しは束縛されてもいいと思うぞ。」 「何で?」 「束縛されていなかったら、自由を求めて頑張ろうとかしないだろーし。それ に……」 「それに何?」 ガウリイは心の中で呟く。 俺はもう束縛されてるよ、お前に。 一度捕まったら逃れられない、心地の良くて強すぎる束縛に。 しかしその思いをガウリイは口にしない、代わりに出たのは心にもないこと。 「お前さんは全く束縛がないと暴れそうだからな。」 ぶちぃっ 「言ったわねぇぇぇぇぇ!待ちなさいガウリイッ!」 「うわぁぁぁぁぁ!!」 魔力の玉を持ったリナはガウリイを追いかけていった。 池では赤い残像が気持ち良さそうに泳いでいた。 <おわり> |