ずっと二人で







 ―――――――闇――――――――
 何も見えない闇が広がる……
 どうしてあたしはここにいるんだろう?

 ―――リナっ!

 誰か呼んでる……どこにいるの?
 
 全てはスローモーションだった。
 あたしの前に立ちはだかる金色の髪。
 砕け散る胸甲冑。
 ゆっくりと倒れる体。
 閉じられた蒼い瞳。
 一目見れば分かる、深い深い傷口、抱きとめたあたしの手を紅く染める溢れる鮮血……
 だめ!「治癒」じゃ治せない……!
 どうしよう、どうしよう、泣いてる場合じゃないのに、涙が止まらない。
 体は体温を失っていく……もう二度とあの綺麗な目を開くことは無いの……?
 嫌だ、あたしはまだ何も言ってない!何も聞いてないよ!!

 コレハ夢ヨ……ワルイ夢ナノヨ……

 あたしは堅く目を閉じる。次に目を開けたとき、辺りは闇に包まれていた。
 やっぱりね。
 ここはどこなのだろう。
 何も無い、何も聞こえない闇――――
 それに……さっきの人は誰?あたしを呼んだわ。
 でも、あたしは知らない……あんな人知らない……

『本当は知ってるんだろ』
 誰?
『あれが誰なのか。なにが起きたのか』
 知らないわ。あたしは何も……
『ここがどこなのかもわかってるんだろ』
 知らない、知らないわ!
『逃げるな……』
 逃げてなんかない、ほんとにわかんないんだから!
 あんた誰なのよ!さっきのビジョンは何なの!あんたが見せたんでしょ!!
『教えてやろうか?あの男の名を』
 男?あの金髪の人のこと……?
『ガウリイ=ガブリエフ』

 ―――――――!!

『思い出したか?何が起こったのか』
 ガウリイ……ガウリイ!
 そうよ、あたし達はいつも通り街道を歩いてた。
 そしたら突然魔族が現れて、戦闘になった。
 たいしたことないザコだから、と油断してた。気付いたときにはあたしの真後ろに
 奴はいた。手に魔力光を灯して……
 よけられない!そう思った時、ガウリイがあたしを庇って……!!
 そう、さっきのビジョン、あれはガウリイが倒れる瞬間。
 あたしを……庇って……死んでしまった彼…………
『思い出したようだな。全てを』
 嫌よ!いやあああぁぁぁぁぁ!!
 信じたくない、信じられない、ガウリイが死んだなんて!
 あたしを一生守るって言ったのに!
 どうして……こんなの嘘よ!!
『目を開けろ……真実を見ろ』
 嫌よ!何も見たくない!
 何も言わないで!これ以上思い出させないで!
 あの綺麗な長い金髪も、優しく、時には厳しくあたしを見つめる蒼い瞳も、
 大好きな少し低い声も、微笑みも、あったかい手も、みんなみんな無くなってしまったなんて!
 そんなの耐えられない!!
『このままではこの闇から出ることは出来ない。お前は死んでしまうぞ』
 かまわないわ!
 あたしはここにいるの!ガウリイのいない世界なんて要らない!
 ガウリイがいない所なんて行きたくない!
 会いたい、会いたいよぉガウリイ……ガウリイに会いたいよ!!
『……それじゃずっとオレに会えないぞ』
 ────え?
 今……なんていったの……
『お前さん、オレに会いたいんだろ』
 忘れようもない、少し低い声。あたしだけの、優しい響き……
 …………ガウリイ?
『なんだ、もうオレのこと忘れたのか?』
 目の前に現れる金色の光、蒼い瞳、優しい笑顔。
 あたしの、大好きな、なによりも大切なひと─────
 ガウリイ、ガウリイ、ガウリイっ!!
『なに泣いてんだ、リナ。まったく世話がやけるよな……お前さん死んじまうぞ、
このまんまじゃ。
せっかくオレが助けてやったのに』
 だって、だってガウリイが……あたしの大好きなガウリイが……
『オレもリナのことが大好きだぞ。さあ、早く行こう』
 あったかいガウリイの手。あたしの手を握ってくれる……
 行くって……どこへ?
『決まってんだろ。オレのところさ』
 ……うん、そうだね。
 ガウリイがいる所なら、あたし、どこでもいいよ。たとえそれが死の世界でも。
 ガウリイが一緒なら、どこにでも行けるよ。
 連れていってね、ガウリイ。もう離さないでね。
 ずっと側にいてね。
『当たり前だろ……ほら、早く目を覚ませ……』

 ―――――……光が……溢れ出す……―――――

 

 ぼんやりと、天井が見える……あたし……
「どうやら気がついたようじゃの」
 声の方を見れば、白衣を着た老人があたしの顔を覗き込んでいた。
「ここは……?」
「わしの診療所じゃよ。5日ほど前にお前さんがここを尋ねて来たんじゃ。覚えとるか?」
 ……そう、そうだった。あのあと魔族を倒し、ガウリイを抱えてここに来たんだった。
「あんたはここに着くなり倒れてしまってな。どこも怪我は無いのじゃが、ずっと意識が戻らな
かったんじゃ。あのまま意識が戻らなかったら、危ないところじゃった。」
 そっか……あたし、ずっと眠ってたんだ……
 5日間も、あの闇の中にいたんだ……
「しかし、もう大丈夫じゃな。せっかく連れが命を取りとめたのに、あんたが死んで
しまっては元も子もないからの」
 ―――えっ!
「ガっガウリイは無事なの!」
 医者はあたしの剣幕に少し驚きながらも、にっこりと笑ってこたえる。
「あぶないところじゃったがな。お前さんの隣に寝とるよ」
 あたしはあわてて隣を見る。
 そこにはガウリイが静かに横たわっていた。
「もうしばらく休養が必要じゃ。ゆっくりしていくといい」
 そういって、医者は部屋から出て行った。
 あたしはベットを降り、ガウリイに近づく。
 体中包帯でぐるぐる巻きだけど、規則正しく上下する胸……生きてる!!
「ガウリイ……よかった……」
 次々と、涙がこぼれてくる。あたしはいつのまにか、こんなにも弱くなっちゃったんだ……
「……なんだ……また泣いてるのか……?」
 掠れた声に顔を上げると、ガウリイがあたしを見つめ、微笑んでいた。
「ガウリイ!!」
 あたしの声にガウリイが頷く。
 あたしは思わず、彼の手を握っていた。
「オレの声……ちゃんと聞こえただろ……リナ?」
 え……あれは……夢じゃなかったの?
 ガウリイもあたしと同じものを見てたの?
「……まったく……お前さんはオレがいないと、すぐどっかに行っちまうんだから……
だから迎えにいったんだぞ」
 夢じゃ……無い……
 迎えにきてくれたんだ……あたしを……
「ごめっ……ガウリイ……あたしのせいで……こんな怪我っ……」
「お前のせいじゃない」
 きっぱりと、ガウリイは言い切った。
 あたしのせいだよ、あたしがいたからガウリイが……
「でっ……でもっあたしと一緒にいなければ、こんなことにならなかったのにっ……」
「違う」
 さらに言い募ろうとするあたしの口をガウリイの指が塞ぐ。
「……リナ」
 ガウリイの真剣な声にはっとして我に帰る。
 あたしは、ガウリイの胸に顔を埋める形で抱きしめられていた。
「聞こえるか?リナ。オレの鼓動」
 ……とくん……とくん……聞こえる、力強いガウリイの音。
 あたしはこくん、と頷く。
 ガウリイはあたしの頭を撫でながら話し出す。
「さっきも言ったが……オレはリナが好きだ。愛してる。何よりも誰よりも大切なんだ。
 だから、つい無茶してお前さんを庇っちまうんだ。これはどうしたって治らない。
 体が勝手に反応しちまうんだからな。でもな、リナ。たとえお前さんを庇ってオレが
どんな怪我しようと、お前は悪くない。オレが好きでやってるんだからな。
 それに、どんな怪我しようと、オレは絶対に死なない。リナを置いて死んだりしない。
 お前を一生守るって約束したしな。」
「……ガウリイ……」
 顔を上げてみれば、そこには優しい蒼い瞳があたしを見つめていた。
 大切な、大切な、決して失いたくないもの……
「ほんとに?ほんとに約束してくれる?」
「ああ。もちろん」
 あたしの涙を拭ってくれる、お日様の笑顔。
「だから、どこにも行くな。ずっと側にいてくれ、リナ」
 ガウリイの心が伝わってくる……絶対死なないなんてありえない。次は死んでしまうかも
 しれない。でも、ガウリイは本気で言ってくれてる。
 『死なない』と。
 『だから、ずっと一緒に生きていこう』と。
 これが彼の金色の輝き、彼の強さ。あたしも負けていられないよね。
 あたしは、最高の笑顔で笑い返す。こんなに素直になれるのは、きっとガウリイの前だけ
 だから。あなたは特別だから。
「うん、ずっと側にいる。大好きだよガウリイ」
 あたしは、自分からガウリイに口付ける。
 ガウリイは驚いた様子で少し赤くなって、あたしをもう一度抱きしめた。


『保護者は卒業、だな』
『そーね。これからは相棒、かしら』
『なんだよ、恋人じゃないのか?』
『どーしよーかなー』
『こら、リナ』
『えへへっ』


 ―――――― ずっと二人で生きていこう。もう離れないように ――――――