大 掃 除







ごそごそ……
あたしは自分の荷物をどんどん宿の部屋に広げていく。
だからと言って盗賊いじめの戦利品の品定め、などということはない。ないったらな
い。
今日は大晦日だったりする。そして明日には新年を迎える。
ということで、気分を新しくするために自分の荷物を整理する。
すなわち大掃除を行っているのだ。
勿論ガウリイもしているのだが隣の部屋で、である。
部屋が狭くなるし、乙女にはいっぱい秘密があるのだ。
いくら自称保護者とはいえ乙女の秘密を見るなど言語道断!
いやまあぢつを言えばこの前ガウリイに隠れて盗賊いじめに行った時のお宝さんがま
だ残ってたりするのだ。荷物の中に。
もし万一ガウリイに見られたら勘のいいあいつのこと。
盗賊いじめに行ったとばれてぜぇぇぇぇったい説教するハズ!
大晦日にそんなもんゴメンである。
というわけで。あたし達は別れて荷物の整理を行っているのだ。
「にしても、結構いらないもの少ないわねって、まあ常日頃から整理してるから当た
り前なんだけど………」
そう、旅にいらないものをもっていくのは重いだけで何の得にもならない。
あたしのほうは魔道の道具やら何やらといろいろ持ち歩いているため、掃除といって
も主にマジックアイテムの傷み具合をチェック、場合によっては捨てる、などという
ことをするのだ。それも常日頃よく手入れをしているために、あまり傷んだものはな
い。
だから旅先での大掃除などほとんどいらないといっていいのだ。
ま、気分というか風情というか。まあ気休めである。
あたしは結構掃除が好きである、何かさっぱりしていい気分にさせてくれるのだ。
ま、まあ郷里の大掃除はちょっと、いやかなり嫌だけど……
なんでっていうのも郷里の姉ちゃん母ちゃんときたら。
掃除と聞けばあたしにほとんどの役を押しつける。
姉ちゃんにいたっては手を抜いたり埃が少しでも残ってようものなら……
…いや。言うまい。言えばあたしが姉ちゃんに殺されかねない。
「さーてと♪完・了〜♪♪」
思ったよりすぐに片付いて、ほっと一息。
ガウリイのほうはどうなんだろ。
ガウリイの部屋の方…といっても壁だが…に視線を向けると。
がらどしゃっ
「うわっ」
何かが崩れる音。そしてガウリイの慌てた声。
…………。
「はぁぁぁぁ………」
あのくらげ、掃除もロクに出来ないわけ?
あたしは溜め息をついて、ガウリイの部屋の前に行きノックをして言い放つ。
「ガウリイっ入るわよ!」
そしてドアを開ける。
その中で見たものは予想通り、いや予想以上のものだった。
「………何コレ………」
散乱する大量の物。それに埋まるガウリイ。
ガウリイの荷物は小さなナップサックだけで結構少ないと思っていたのだが……
この量は一体どこから出した、ガウリイ?
「いやぁ…荷物ひっくり返して出したらこんなに……」
いつも通りにのほほんと笑うガウリイ。
「ねえ、大掃除って綺麗にするものじゃなかった?ガウリイ。」
あたしは荷物の山に埋もれるガウリイのほうに歩みを進めながら言った。
「あはは…そうだっけ?忘れた。」
がくっ
思わず突っ伏しそうになりながらあたしは叫んだ。
「そうだってのよ!まぁぁぁったく!くらげだからって掃除もロクに出来ないわけ!
?今までどうやって旅してきたんだか……。」
そう言ってしゃがみこむ。溜め息をついて言った。
「…あたしはもう終わったから、手伝ったげるわよ。」
「リナが…親切なこと言ってる!?」
ガウリイの驚いた声。
ほほぉぉぉう。
「ガウリイ君…どォいう意味かナ?」
笑顔で呪文を唱え始めるあたし。
「いいいいや!深い意味はない!!ないから!呪文唱えんのやめろってぇぇぇぇぇ
!」
必死の形相であたしにしがみつき懇願するガウリイ。
「わかったから…んな情けない声出さないでよ……。ほら、いるものこっちに置い
て、捨てるものこっちに置く!さっさとしなきゃ年明けるわよ!返事は!?」
「はーい。」
「やる気が感じられない!」
「はい!」
ガウリイは慌てて言いなおし荷物を整理し始める。
「ったく………」
溜め息をついてあたしもガウリイの荷物を移動にかかる。
「リナ。」
ガウリイが声をかけてくる。
「何よ。」
振り向くと満面の笑みを浮かべたガウリイがいた。
「さんきゅ」
う………
は、はずかしいじゃない!
イキナリんなこと言われたら!!
「どーいたしましてっ!」
あたしはそっぽを向いてぶっきらぼうに答えた。
そっれにしてもガウリイの荷物。
なにがあるのかと思っていたら結構普通のものも多い。
歯ブラシ、くし、予備の服、裁縫道具。
いや、まあ持参のパジャマとか持ってるのは少しびびったけど。
宿においてあるんだからソレ使えばいいでしょーに……用意がいいというか……。
やっぱりくらげの荷物。謎多し。
パジャマもそうだけど、例えばこの箱……
「このすっごい量の針…何?」
「あ、それー?光の剣使ってた時なんだけど刃身外す時時々針が折れてさー。買いだ
めしてたら余っちまって…今は必要ないからなー…でも捨てるのも勿体無いしどうし
ようかと思ってたんだよ。」
「ふ――ん…裁縫道具持ってたじゃない、アレにいれとけば?」
「ああ、そうだな。でも量が多すぎてなー…あ、そうだ。裁縫道具の中の古い錆びた
針と変えといてくれないか?それで余ったらお前にやるよ。」
「いいの?」
「ああ。」
らっき♪
そしてあたしは裁縫道具を探し出しその中の針を取り替え始めた。
結句錆びている奴も多かったのだが中の量が量なだけに三十本ぐらい箱の中に余って
いる。
「ねぇガウリイ。結構余ってるけど……」
ここまで余ってると遠慮してしまう。
「だからやるって。」
「いやでも……」
「いいから。俺なんかほとんど使わないしな。」
「ん…じゃあもらっとくわ。」
あたしはその箱を懐の中にしまい、裁縫道具を片付けはじめた。
「ん?」
と、その裁縫道具の奥の方に薄っぺらい何かが入っている。
あたしはそれを引っ張りだし、その正体を知った。
「…しゃ、写真……?」
そう。写真である。
魔道技術の最先端ともいえる一枚撮るのにとてつもない莫大なお金がかかるというあ
の写真である。
どうしてガウリイがこんなものを……?
そう思いながら表を向ける。
それを見て今まで思っていた事柄は霧散し、思わずあたしは叫んだ。
「かっわい〜〜〜!!(///)」
そこに映っていたのは数人の子供達とその親らしき二人。
たぶんガウリイの両親とその兄弟だろうが……その写真の真ん中にガウリイがいる。
それが、幼くてこの上なくかわいいのだ。
それはもう思いっきり。
男とは思えないのぷりてぃさである。
「ね、ガウリイ。コレいつの写真―――」
あたしの声は振り向いて尋ねようとした途中で、止まった。
ガウリイがあたしの手から写真をひったくったのだ。
「ちょ、ガウリイ!なにすんのよ!」
思わず抗議の声を上げるあたしにガウリイは怒ったような顔で言った。
「人のもん勝手に見るなよな。人には知られたくないコトだってあるだろ。もう少し
分別がつかないか?」
むかむかっ
「何よ、それっ……!」
頭がカッと熱くなる。
何よ、あたしガウリイの家族の写真見ただけじゃない…!
何でそこまで言われなきゃなんないの!?
「他人には見せたくないこととかあるんだよ。俺にだって。」
他人。
ずきり
他人なんて言うのは当たり前のことなのに、そう言われて胸が痛くなった。
そういえば…あたしガウリイの家のこととか、昔のこととか、全然知らない……
聞いてもはぐらかして…いつも、答えてくれない。
三年以上も一緒に旅してるのに、ガウリイのこと何にも知らない。
ガウリイがはっとした顔になる。
「あ、ごめん。言い過ぎた……」
ガウリイが頭を撫でようと手を伸ばしてくる。
ばしっ
あたしはそれを乱暴に払いのけた。
「リナ!?」
「…な…によ………」
肩が震えるのが自分でもわかる。
「何よ!見せたくないことがあるからっていつもいつも自分のことは隠して!ガウリ
イの郷里のことも家のことも兄弟のことも全然話してくれた事ないじゃない!!」
ガウリイの言ってることはもっともだ、正論だとわかっているのに。
頭の中がぐちゃぐちゃで自分勝手な言葉しか出てこない。
「三年以上も一緒にいるのよ!?…なのにあたし、ガウリイのこと何にも知らな
い…」
語尾がどんどん小さくなって、頭が冷えてくるかわりに目尻が熱くなる。
「あたし……いやなのよ。もしガウリイと旅するのをやめてこのまま離れたら…ルー
クとミリーナみたいに…フルネームも知らないような関係とほとんど同じになるじゃ
ない……そんなの嫌なのよ……」
涙がこぼれそうになり、それを必死で堪える。
ふわり
優しい感触。ガウリイがあたしを優しく抱きしめていた。
「が・が・が……!?」
ガウリイ!?と言おうとしても言葉が続かない。真っ赤になるあたし。
「ごめんな…」
優しい声。出そうだった涙が止まる。
「今更謝ったって遅いんだからっっ!」
「ごめん、俺は秘密が多すぎるな。」
ガウリイはあたしを抱いたままあたしの髪を撫でる。
落ちついてくるあたし。
「どうして…自分の家族のこと話さないの……?」
おずおずと聞いてみる。ガウリイは苦笑したようだった。
「俺の家。光の剣を代々伝えてきたわけなんだけどさ。光の剣ってやっぱりすごい値
打ちのあるもんだから、取り合いになって…前の代はイザコザの中でうちの父さんが
受け継いだんだ。でもうちの父さんが病気で亡くなって…後継ぎとその光の剣の継承
者を巡って、争い始めたんだ、身内中が。叔父さん、叔母さんとかが中心に。」
よく貴族などにある後継者争い。それがガウリイの家にもあったなんて…
「俺はまだそのとき十五、六だったしな。ほとんどソレには関心もなかったんだが…
叔父さんたちが、光の剣の継承者と後継ぎになるために……ほらさっきの写真にいっ
ぱい小さい子がいただろ?あれ全員俺の妹や弟なんだけど…俺達に暗殺者を送りつけ
てきたんだ。」
「………!」
あたしは思わず息を飲む。
「その時俺や兄ちゃんとかは剣の腕、そこそこだったから生き延びたけど小さい弟と
か妹とかは、死んじまった………」
寂しそうで、そして辛そうな声。
「守れなかった……俺、守れなかったんだ………弱くて、こんな自分が嫌で、こんな
争いが嫌で…光の剣持って家を飛び出したんだ……。」
「ガウリイっ!もう、もういいから…もうしゃべらなくていいから……!」
あたしはたまらずそう言った。
話しているガウリイの顔があまりにも辛そうで、苦しそうで…見ていられなかった。
耐えられなかった。自分で聞いたのに…
ガウリイは苦笑した。
「だから…昔の事は言いたくなかったんだよ。特にリナには……」
「何で…特にあたしなの……?」
「んー…昔お前と会う前、なんかおかしなおやじに会って、惚れた女の前では弱いと
ころは見せるな、って言われたんだよ。かっこ悪いからって。」
「へぇぇ……って、え!?」
ちょっとちょっとちょぉぉぉぉっと待て!
今え〜っとなんかさらりとすごいことを言ったような……
んっと。今の言葉はガウリイは惚れた女の前では弱いところは見せるなっていうとあ
るおやじの言い分を聞いてる…ということだけど。その前に特にあたしにはってガウ
リイが言って…何でって聞いたらその答えとしてこれ言ったから……
えぇえぇぇぇぇぇぇ!?
「あー…やっぱりはっきり言った方がいいかぁ……」
そう言ってガウリイがパニくってるあたしを抱きしめる力を強くし耳元で囁いた。
「愛してる、リナ。」
かぁぁぁぁぁぁっ
頭が真っ白になって顔が真っ赤になる。
「……ごめん、こんな突然。でも、俺お前の事愛してるんだ。保護者としてじゃなく
て、普通の男としてお前を見ていた。」
顔が真っ赤になって、心臓の音が頭の芯まで響いてる。
なのに。嬉しい。
喜んでいる自分がいる。
わかっていた、その自分の存在は。わかっていた、本当の自分の気持ちに。
伝えるのがただ恐かったけど。
「………返事、聞いてもいいか………?」
今なら言える。もう恐くないから。
深呼吸して小さく言った。
「…好きよ。あたしもガウリイのことが好き……」
ガウリイの顔が喜びに溢れる。ガウリイがあたしを思いきり抱きしめる。
「あたし、ガウリイが自分から進んでガウリイのこと話してくれるまで、待つわ。あ
たしもガウリイのこと、受けとめられるように、がんばる。がんばるから…だから…
いつか話して……」
やっと言えた。あたしの気持ち。
「ありがとう…リナ…」
ガウリイはあたしの頬にキスをした。
あたしは思わず硬直する。
するとガウリイはすっと抱きしめていた腕をとく。
「さっさと掃除しようぜ。掃除終わったら、年越しソバ食べるんだろ?」
ガウリイは優しく笑ってそう言った。

うう、何かまだ子供扱いされてる気がするけど…
いつか、いつかもっと大人になってガウリイのこと受けとめるから。
ガウリイの心の苦しみを拭い去れるように。
頑張るからね。ガウリイ。

〜〜おわり〜〜





あとがき
途中から大掃除関係なくなってしまいました(涙)
……最初はもっとのほほんのつもりで書いてたのに……
もっと精進します。