二人のWEDDING |
偶然、あたし達、リナ=インバースと連れのガウリイが立ち寄った小さな村では、結 婚式が行われていた。 偶然その日にいあわせたことで、あたし達も結婚式に飛び入り参加させてもらえるこ とになったのだ。 質素な村のはずなのに、式は盛大に、華やかに行われた。 白いドレスに身を包んだ花嫁は幸せそうに笑っている。 黒いスーツに身を固めた花婿は照れたように赤かった。 花嫁と花婿の友達が口笛吹いてはやしたり、思いきりの笑顔で祝福したり。 二人の両親が涙を流して喜んだり。 あたしもいつか…こうなるのかな。 昔はこういうことに興味がなかったあたし。 興味がないどころか、呆れまでしていた。 たった一人の男に縛られて、自分の人生棒に振るなんてあたしにはまっぴら、って。 でも。今は何故か前にある二人の様子を綺麗だと思い、そして羨望している自分がい る。 誰かと結婚してそこに幸せを見出すことが、あたしには出来るだろうか。 そもそも誰かって誰なんだろう。 ……ガウリイ? ふとあたしの脳裏に、横で結婚式に魅入る相棒の名前が過ぎる。 んなわけないよね。 あたしがいくらその気でも、あっちにはその気はないんだもん。 だってあっちにはこっちは子供って映ってるわけだし。 もうすぐ19になるっていうのにさ。 ちょっとした苛立ち。ちょっとした好奇心。 「ねえ、ガウリイ。」 「なんだ?」 あたしがこの言葉を発したら、ガウリイはどう言うだろう。 「素敵よね。」 似合わないと笑うだろうか。お前も女の子だもんな、と頭をなでるだろうか。 たまたま、偶然にその村で結婚式が行われていて、偶然俺達はその参加をすすめられ た。 質素な筈の村なのに、結婚式は盛大だった。 皆が祝福していた。 結婚… そんなもの考えたこともなかった。 一人で旅していたころは。 自分にはそんな幸せ、縁のないものだと思ってた。 いらないものだと思ってた。だけど。 隣の少女を盗み見る。 栗色の髪、燃える赤い宝石の色の瞳を持つ少女… いや、もう少女とは言い難い女性、リナを。 いつだっただろう。 この小憎らしい少女の傍にいるといつのまにか癒されている自分に気がついたのは。 徐々に大人になる彼女を、本当に女だと意識したのは。 今ではもう、離れることを考えられないくらいに、溢れそうなこの想い。 だけど彼女は大人になっていく。 彼女もいつかはこの関係のままなら俺の傍を離れていってしまうこともわかってい る。 再び俺は結婚式の主役の方に目を向ける。 いつかは、変わらなければいけない。 それが新たな関係であっても、または別れであったとしても。 「ねえ、ガウリイ。」 リナが、声をかけてくる。 「なんだ?」 リナは視線を前に向けて言った。 「素敵よね。」 意外だった。 リナがそんな事を言うなんて、正直いって驚いた。 縛られることを嫌う彼女。 自由を求めて走りつづける彼女が。 結婚式を見てそういう感情を持つのは、とても珍しいことだから。 からかうべきなのか。それとも真面目に答えるべきなのか。 戸惑いながらも、俺は黙っていた。 彼は黙っていた。 ちらりと視線をやると、押し黙ったまま…戸惑ったような感じ。 やっぱり意外だったのね。 溜め息と苦笑が出そうになるのを堪え、心の中でガウリイに向かって呟く。 ―――子供扱いしなかっただけ、誉めといてあげるわ。 「ケーキが。」 あたしは言う。本心を隠して。 「は……?」 ガウリイはかなり拍子抜けしたようだった。 「ケーキがよ。あの大きなケーキ。結婚式には絶対あるじゃない。」 「……お前。食い意地はってんなー…。」 「いいじゃない別に。一回あのケーキ、一人で全部食べてみたいわー♪おいしーだ ろーな。あ、ガウリイには一口たりともあげないからね。」 「はいはい。」 ガウリイは呆れた口調で返事をした。 「ケーキが。」 「は……?」 一瞬なんのことかまったく理解できなかった。どうしようもなく戸惑って、口を閉ざ したままだった俺は、思わず間の抜けた声を漏らしていた。 「ケーキがよ。あの大きなケーキ。結婚式には絶対あるじゃない。」 なんだ。そういう意味か。 花より団子。結婚式よりケーキか。 リナらしいよ。本当に。 まだまだ子供で…俺の気持ちにも気がつかない。 「……お前。食い意地はってんなー…。」 だから、もう少し。 もう少しだけ。 変わることを待ってくれないか? 「いいじゃない別に。一回あのケーキ、一人で全部食べてみたいわー♪おいしーだ ろーな。あ、ガウリイには一口たりともあげないからね。」 だから今は保護者のままでいさせてくれよ、リナ? 「はいはい。」 俺は呆れた声で返事をした。 結婚式ももうすぐ終わる。 花吹雪が新しくはじまる二人を祝福しながら降りそそぐ。 この道を二人が共に歩く日が来るのは、後もう少し先のこと。 〜〜おわり〜〜 |