林 檎







昔々のお話です。
楽園がありました。
そこは食料も尽きず安全で平和な場所でした。
そしてそこでは誰もが永遠の命を持っていました。
楽園に一人住んでいた神は、ある時大地の土からアダムという人間を作りました。
それから次に、イヴというアダムとは少し違う人間を作りました。
こうして人間は女と男に分かれました。
そして神は二人を楽園に住まわせたのです。
神は彼等に赤い木の実を食べてはいけないといいました。
しかし事件は起こります。
事件の発端は、赤い実のなった木にいた蛇がイヴをそそのかしたのがはじまりで、イ
ヴはその誘いに乗って、その実を食べてしまいます。
追ってアダムもその実を食べました。
それは知恵の実でした。
アダムとイヴは自分達が男と女であることを認識し、恋に落ちたのです。
そうしてそれがわかり、知恵をつけた彼等を神は恐れたのです。
そうして人は神に楽園を追放され、不死を奪われ、地上に住まうようになったので
す。

「とまあ、こういう話ね。この知恵の実っていうのが林檎だと思われてるのよ。うろ
覚えだから多少違うところはあるでしょうけど…ただのおとぎ話みたいなものよ。世
間は皆これを信じてるみたいだけど…あたしはあんまり信じてないわね。」
リナは話を終えてふぅ…と溜め息をついた。
「なんでガウリイ、こんな有名な話も知らないのよ……」
ガウリイは頭をぽりぽりと掻いて視線を虚空に向けていった。
「いやあ…何か聞いた事あるような気もしないんだが…忘れた。」
「このくらげ……」
リナが呆れた顔で呟いた。
どうして二人がこんな話をはじめたかというと、とある町で林檎を買ったのが始まり
だった。
リナがその時思いついたように言ったのだ。
「ガウリイ、林檎いっぱい食べたらあんたのくらげ病少しはよくなるかもよ?」
「なんでだ?」
「ほら、アダムとイヴの話で林檎が知恵の実だっていうの、あるじゃない。」
「……あだむといぶ?」
「…………あんた、もしかしてアダムとイヴの話も知らないの!?」
「知らんが、それ有名なのか?」
「……いい、たぶんあんた知らないか忘れてるだろうから…あたしが話してあげ
る。」
そうして今にいたるのだ。
「あんたって常識ないわよね―――…」
リナがしみじみと呟く。
「別にいいじゃないか、死ぬわけでもないんだし。」
ガウリイがのほほんと言い返す。
「いや、まあそうなんだけど……」
「んでさ。その…アダムとイヴの話、だっけ?それで聞きたいことがあるんだけ
ど。」
「何?」
「お前さんがイヴだったら、知恵の実を食べたか?」
リナはしばらく悩んでいたが言った。
「それが知恵の実だとわかっていなかったら…わからないけどわかってたら食べて
る。」
意外そうな顔でガウリイが尋ねる。
「どうしてだ?永遠の命とかいうのもなくなって楽園からも追い出されるのに?」
「だって、つまらないわよきっと。楽園なんて。」
「つまらない?」
「楽園は平和で何不自由なく暮らせる場所だって話だけど、それって冒険とかわくわ
くする気持ちとか、きっとないのよね。」
リナは今の生活が好きだった。
冒険して世界を回る。大変だけど面白い生活。
そんな生活が好きだった。
それを奪われるのは嫌だった。
「永遠の命って言うのは結構魔道士の間では研究したがるバカもいるけど、あたしは
そういうのごめんだわ。命は限りあるから面白いもの。それに……」
リナは苦笑した。
「安全で平和、なんてあたしの性にあわないでしょ?」
それを聞いてガウリイはしみじみ呟いた。
「そうだよな、そうじゃないとどらまたとか大魔王の便所のフタなんつーすっごいあ
だ名つかないもんなぁ………」
「ガウリイ、竜破斬食らいたい?」
「ううううう嘘だって!嘘だから笑顔で呪文唱えながらにじりよるなぁぁぁぁ!」
「冗談よ。それよりガウリイはどうなのよ。」
リナは意外に早く機嫌を直し、ガウリイに尋ねた。
「……何が?」
「ガウリイがアダムだったらどうするの?話じゃあイヴが林檎をアダムにすすめて食
べさせたって言うんだから、勿論断ることも出来るわけでしょ?その時ガウリイはど
うするのかってはなし。」
「う――ん俺は……」
ガウリイはぽむっとリナの頭を叩く。
「リナがイヴなら食べてると思うぞ?俺も安全で平和なんて、性に合わないからな。
リナと一緒にいれば嫌でもトラブルに巻き込まれるしな。」
ガウリイはリナと共にありたかった。
リナがいない楽園などに興味も未練もなかった。
だからそう答える。
「トラブルメーカーだっていいたいの?」
リナの声に殺気がこもる。
「お前といると退屈しないって言ってるんだよ。」
ガウリイは笑ってそう答えた。
「それにトラブルメーカーはお互い様だろ?」
「ま。それもそうね。」
リナも笑ってそう答えた。
「さーてと、林檎食べようぜ。」
「ちょっと一人で食べないでよ!」

この二人がアダムとイヴのように恋人同士になる日は果たしてくるのでしょうか?

〜〜おわり〜〜