ゆ う わ く







 夜。
 この村の人々はみんなベットに入っている頃だろう。
 しかし、オレはベットに入ることなくそれを待っていた。
 きっと今日は動くだろう。
 はぁ。
 オレは小さくため息をついた。
 それにしても、オレもけなげだよなぁ。
 我ながら関心してしまう。
 隣の部屋の気配に気を配りながら思う。
『そういえば、そこの街道に盗賊がでるらしいけど、あんたたちは大丈夫だったかい?この間もあの大きなお屋敷のお宝を隣街まで運ぶトコロをやられたってウワサだ。用心した方がいいよ。アジトもあそこの、ほら、あの山の中腹に光が見えるだろ?あれらしいぜ?』
 宿屋の親父の迷惑な世間話を思い出す。
 はぁ。
 オレは気付かないフリをしていたが、隣でその話を聞いていたリナの目が輝いたのは言うまでもない。
 その後、リナはご機嫌で夕食を平らげると笑顔で「おやすみ、ガウリイ♪」と言うとオレの隣の部屋である自分の部屋へと消えて行った。
 行くつもりだな。
 オレは直感でそう判断して、リナの気配を探っているのだ。
 ふふふふ・・・・・。
 絶対に阻止してやる。
 そう、オレは今夜それを達成すれば10回連続でリナの趣味である「盗賊いぢめ」を止めたことになるのだ。そう、それはかれこれ3ヶ月程前からのリナとオレとの戦いだった。
 時には食事にブルーなんとかの実を入れてオレを眠らそうとし、そして時には呪文でオレを眠らそうとし、はたまた時には人の高頭部を力ずくで殴りつけ、最後には直接攻撃呪文をぶち込んできた。しかし、そんな戦法でオレに勝とうなど10年早い。
 いくら眠らせようとしても、オレのこの野性的な勘を持ってすれば(←自分で言うなよ)それを回避することは簡単だ。もちろん、オレにダメージを加えて大人しくさせようとしても、オレの体はすでに人間離れした復活能力を身につけているため生半可な攻撃には動じない。むしろ、オレを殺すぐらいの意気込みがなくてはオレを大人しくさせることはできないだろう。
 でも、リナはそれをすることができない。
 そんなの分かってる。
 リナはホンキでオレに攻撃を仕掛けることはできないだろう。
 そんなトコロがオレにとっては嬉しいんだけどな。
 リナはオレに攻撃を仕掛ける時、自分で気付かない内に手加減しているトコロがある。
 それは、つまり、そういうことなわけで。
 やっぱり、オレは自惚れずにはいられなくなる。
 それにしても・・・・・、何で分かってくれないんだろうな。
 盗賊いぢめなんてやめて欲しいんだ。
 別に大丈夫だってリナは言うけど、もし万が一のことがあったらどうするんだ?ちょっとでも危ない目にあって欲しくないんだよ。いくらリナが強くても相手は大の大人でしかも男なのだ。もう少しでいいから警戒して欲しい。
 はぁ。
 今日何度目かのため息をついた。

 ・・・・・・。
 
 リナの気配が動いた。
 ゆっくりと、そして静かに。
 甘いな。
 このオレがお前の気配に気付かないわけないじゃないか。
 その気配はオレの部屋の前で止まった。
 今日はどうする?「眠り」か?それとも攻撃呪文で来るのか?
 コンコン。
 ん?
 新しい戦法だな。
 何か考えがあるのか?
 まぁ、いい。オレはリナを止める絶対の自信があるからな。
「空いてるぞ?」
 いつものようになるべく優しい声で答える。
 すると、扉がゆっくりと開いてリナの姿があらわになる。
 なっ。
 心臓が一気に駆け上って行くのが自分でも分かる。
 今日は、何でパジャマなんだ!? 
 しかも、リナの髪からはほんのりと湯気が立ち上っている。
 風呂上りなんだろう。
 リナが頬をピンク色に染めて枕を抱きしめている。
 それは、つまりそういうことなのか!?
 ゴクン。
 思わず生唾を飲み込む。
 あっ。違うぞ、そういうことじゃないぞ。
 いや、決してオレはそれを想像したわけじゃない。
 そう、断じて違う。
 リナは片手で髪を書き上げて恥かしそうに笑った。
「ちょっと、いい?」
 急速に喉が乾きを覚える。
「ああ」
 それでも、動揺を悟られまいと必死に自分をつなぎとめる。
 一体どういうつもりなんだ?
 夜中にパジャマで男の部屋に来るなんて。
 しかもその枕は何なんだ!?
 つまり・・・・。
 いや、やめよう。
 騙されるな。
 きっとこれはリナの演技だ。
 盗賊いぢめに行くためにオレを油断させようとしているに違いない。
 くそっ、その作戦は卑怯だぞ!?
 ぐぐっ。オレは拳を握り締めた。
 そんなオレの胸中を知ってか知らずか、リナはドアを閉めてそこに背中を預けた。
 枕をぎゅっと抱きしめるそのしぐさが可愛い。
 もう、こっちがリナをぎゅっと抱きしめたい気分になる。
 ・・・・・。
 いやいや、いけない。
 このままじゃ敵の手中にハマってしまう。
「どうしたんだ?何か用か?」
 オレは心を落ち着けてリナに声をかけた。
「うん」
 リナは小さく頷く。
 そんな仕草さえオレの心臓を直撃する。
 いや、我慢だ。我慢。
 うんうん。
 オレはリナに分からないように小さく深呼吸をするとリナを見て微笑んだ。
 そう、ここで飲みこまれたら終わりだ。
「何だ?」
 オレの問いにリナは一層顔を真赤にして俯いた。
 やめろ。
 やめてくれ。
 そんな顔をオレの前で見せるな。
 いや、だからといってオレ以外には絶対に見せて欲しくないが。
 まったく、こいつは。
 ちょっとは警戒しろよな。
 オレが今どんな気持ちなのか全然わかってないだろう。
「あのね・・・」
 可愛いなぁ。
 真赤になった耳を見てそう思う。
 こういう恥かしがりやなリナがこれまた可愛いんだよな。うん。
「うん?どうした?」
 オレは優しくリナに問う。
 こういう顔を見せられるとついつい甘くなってしまうのが人間の心情だろう。
 しかも、リナの場合。
 その顔をオレだけに見せてくれているのだ。
 そう、他の誰でもないオレにだけ。
 そう思うと嬉しくて、つい抱きしめたくなる。
 まぁ、そんなことをしようもんなら呪文の2〜3発くらうトコロだろう。
 リナはテコテコとオレの前まで歩いてきて、ベットに座っているオレを見下ろした。
 その潤んだ瞳がオレを誘う。
 風呂上りのほのかな香り。
 あらわになった鎖骨のライン。
 まだ濡れている髪がしっとりと艶やかに踊る。
 ・・・・・・。
 ダメだ。
 ダメだぞ、オレっっ!!
 これは、きっとリナの作戦なんだ。
 これに乗ったらオレの10連勝はなくなるじゃないか。
 そう。
 そうだ。
 もう少しの我慢だ。
 頑張ってここを乗り切るんだ。
 ゴク。
 オレは唾を飲みこんで拳を握り締めた。
 そして、心の葛藤など何事もなかったかのようにリナを見上げる。
「ガウリイ」
 ビクン。
 心臓が飛び跳ねる。
 どうしてリナにその名前を呼ばれるとこんなにも動揺してしまうんだろう。
 いや、それは分かってる。
 それを呼んだのが誰でもないリナだから。そして、それがオレの名前だから。
 リナの右手がゆっくりとオレの頬に置かれた。
 暖かい。
 頬にあるその感触。
 オレはそれが夢の中で起ったことのように感じていた。
 そして近づくリナの顔。
 ゆっくりと、瞳を閉じたリナがオレにおりてくる。
 もう、オレの理性はどこかに吹っ飛んでいた。
 こうやってリナからオレにキスをしてくれる。
 それだけでオレの思考はすでに崩壊していた。
 何も、考えられなくなっていた。
 いや、考えたくなかったのかもしれない。
 オレもゆっくりと瞳を閉じ、リナを待った。
 本当は分かっていた。
 この後に来るだろう言葉が。
 でも、この誘惑に勝てる男がいるだろうか。
 分かっていても、それに乗りたくなるってものなのだ。


「眠り」


 そして案の定、その言葉がオレへと向かった。
 やっぱりかぁぁっっ。
 そう思った時にはすでに遅かった。
 その言葉と共に自分の意識が遠ざかっていくのを感じる。
 た・・・確かにこれを真正面から受けたら避けようもない。
「リ・・・リナ・・・・・」
 落ちて行く意識の中でその名前を呼んだ。
「ふふふふ・・・今日はあたしの勝ちね。うっしゃぁっっ、これで連敗ストップだわっっ!!!あ〜〜、恥かしかったっっ。さ〜てとっ、盗賊さん♪盗賊さん♪今行くから待っててね(はあと)」
 薄目を開けて見ると、そこにはスキップをしてオレの部屋を出ていくリナの姿があった。
 盗賊よ、逃げるなら今だぞ。
「・・・・くそっ」
 10連敗!?
 今になってはそんなことはどうでもいい。
 問題なのはそこじゃない。
 何で、最後までしてくれなかったんだ!?
 いや、分かってる。分かってたさ。
 でも、このままオレを放置するなんてあんまりじゃないか!?
 そう、この燃え滾るオレの心と体はどうすればいいんだぁぁぁぁっっっ!!!
 オレの心の叫びは朝まで消えることはなかった。
 ふ・・・・ふふふふふ・・・・・。
 見てろよ。リナ。
 次はないぞ。
 オレはない脳みそを必死に回転させるのだった。


 おわり。







吉川様ぁぁ最っっ高ですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!
うわ〜嬉しい!嬉しすぎますぅぅぅ!!!!

みゃはぁ〜♪リナちゃんやっるぅ♪
そして・・・ふっ 所詮男って悲しい生き物ね・・・・(笑)
飛鳥の無茶なお願い聞いてくださって、しかもこんな素晴らしい小説書いて下さって、本当にありがとうございました!!
みょほぉ〜♪(嬉しさ大爆発!)