夏のアト番外編(女性陣)






彼女は一人、空を見上げていた。
辺りに気配はない。
暗い、闇のみが彼女を包んでいた。

・・・ゼルガディスさん。
なぜ、何も聞かないんですか?
どうして、付いていくことを許してくれたんですか?
あなたは何も言いません
いつだって・・・

彼女は語り続けた、その問いだけを
長い間ずっと・・・・月が中天に上ってもなお・・・

「ずるいです。
待ってたのに、一度も来てくれなくて・・・
我慢できなくて飛び出したのに、『好きにしろ』なんて
そんなの正義じゃありません!!」
そう、彼は・・・全く変わっていなかった


「ゼルガディスさん♪」
「なっ、アメリア・・・なぜ」
「ゼルガディスさんが来てくれないので・・・・会いにきました」
「そうか・・・・もう、気が済んだだろ?
帰れ、大国の姫がこんなところにいつまでもいるな!!」
「帰りません。
私は正義を知らしめる旅をするんです。
あっ、ゼルガディスさんも一緒にどうですか?」
「断る」
「そうですか・・・・なら、一人で」
「アメリア」
「そんな顔しても、ちっとも怖くありませんから♪
それに・・・父さんの許可は取ってあります」
「馬鹿な」
「はい、これ父さんからゼルガディスさんに」

がさがさ・・・・くらっ・・・ふぅ・・・ふっ

「・・・好きにしろ」
「はい♪」


彼女は嬉しかったが、同時に・・・悲しかった

「あなたにとって、私は子供でしかないんですか?
手のかかる妹なんですか?
なら、なぜあのとき微笑んでくれたんですか?
これを受け取ってくれたんですか?そして、なぜ返したんですか?」
彼女の両手首にはタリスマンが・・・
二人が持っていた、約束の証があった

彼女は、問いかけ続けた
空に・・・・いや、自分自身に
そして、答えを出した

「・・・いいです。たとえ、あなたが私をどう思っていても・・・
絶対に振り向かせてみせますから!!」
彼に渡した、タリスマンを見つめながらつぶやいた。
語りかけるように・・・刻みつけるかのように・・・

そんな彼女を、月と・・・・が見ていた






第二話  愛しさを抱きしめて


歩く、ただ歩く・・・一人・・・
あてもなく、ただ・・・切なさを胸に
そして、たどり着いた
青い、蒼いところに

彼女は見ていた、満々と水をたたえたその泉を
飽きることなく・・・・・
いつもの彼女ならば、すぐに立ち去っただろう
だが、今日は・・・・

「馬鹿、鈍感、デリカシーなし、クラゲ、スケルトン
・・・ガウリ・・・ってせっかく・・・あぁ、もうやめやめ!!」
彼女は怒っていた
だが、なにに?

「あいつは〜、人をいったいなんだと
そりゃ、ちょっぴり成長は遅いし、おしとやかでもないけど
なにもあそこまで」
彼女はいらいらしていた
だが、なにに?

それは・・・

「おーい、リナぁ」
「んっ・・・また『オレ、何が言いたかったんだっけ?』
な〜んて事だったら・・・わかってるわね?」
「はは、今度は大丈夫だ!!」
「どうだか・・・あんたのボケ度は年々」
「おい〜、それはいくらなんでも」
「否定する気?」
「・・・・腹、減らないか?」
「(悲しすぎるぞ、それは・・・やめよ)
う〜ん、そう言われれば・・・ちょうど昼どきだしね」
「いやな
あそこの店、全品7割引って書いてあるんだが」
「どれどれ・・・ふっ、行くわよ!!」
「おぅ!!」

からん

「おっちゃん、メニュー・・・・はめんどくさいから、端から3品ずつお願いね♪
それでいい、が・・・ガウリイちゃ〜ん、なに見てるのかなぁ?」
「へ?」
「隅に置けないじゃない、ほんときれいな人よね」
「おまえ、なんか勘違い」
「な・に・が」
「オレはただ、あの人混みはなにかと」
「で、美人がいたんでずっと見てたと
・・・いいわよ、あの輪に加わっても・・・
そしたら、あたしもゆっくりご飯が食べれるし♪」
「おいおい」


「リナ」
「なによ」
「まだ怒ってるのか?」
「べつに
『リナが男に囲まれることはない』
て言ったことなんてちっとも気にしてません」
「しっかり根に持ってるじゃないか」
「『リナみたいにがさつじゃ無理』とか言われても気にもならないし」
「・・・気にもならないセリフに魔法で返すのか?」
「乙女心は複雑なのよ」
「へっ、乙女なんてどこに」

ディル・ブランドォォォォ!!




彼女は見つめる
彼と同じ色を・・・
そして、つぶやく

「・・・うら若き乙女と3年以上も一緒にいて・・・
『一生』とか、『理由はいらない』とか思わせぶりなこと言って
そのくせはぐらかして・・・いったいどういうつもり?」

共にある
それでよかった・・・・これまでは

彼女は佇む
無言で・・・・日が落ちるまで
蒼い水が朱く染まる

「こんなふうに染めれたら・・・・」

辺りを闇が包む
色は戻る・・・いや、深くなる

「いえ、そんなのはいらない
私が欲しいのはそのままの・・・この闇ごとの・・・」

時がたつ
星が瞬き、映る

「そのためには・・・覚悟なさい。
絶対に離さない、奪わせない・・・誰にも、光りは」

煽っていた感情は消えた
彼女の怒りは・・・動けない自分自身に対するモノ・・・
だが、もうない
・・・決めたから、より駆り立てるモノがあるから


水辺に佇む彼女は、そこに浮かぶモノは

戦を楽しむ女神
その腕には知恵と勇気とそして・・・愛・・