天空の川 想いの橋 |
《お・ま・け》劇場 リナと晴れて相思相愛、まごう事無き恋人同士!! ……だが、俺はまだリナの家族の恐ろしさを知らなかった…… 屋根の上でのキスの後。 唇に触れるだけの小鳥のようなキスであったが、リナは嬉しそうだった。 ……俺としては物足りないことこの上ないのではあるが。 まぁ、リナは俺の腕の中にいるし…… そう考えた俺は再びリナの唇を奪おうとして―― 殺気を感じた。 リナが反応しないという事は完全に俺だけに向けられたようだが…… 「ガウリイ?」 不思議そうに見上げてくる俺のリナ(くくうっっ早く使いたかったんだこの台詞!!)に優しく笑いかけ。 さりげな〜〜く手をイケナイ所に伸ばす。 パチン★ 「どこ触ろうとしてんのよ」 気づかれたか。 「イヤか?」 「そおいうワケじゃないんだけど……」 リナは頬を赤らめた。 よっしゃいける!! 「俺に任せとけば大丈夫」 「〜〜〜〜〜そおぢゃなくて!!」 リナは真っ赤な顔で言った。 「……小さい時から母ちゃんと姉ちゃんに言われてるのよ。そおいう所は結婚した相手以外に触らせたら駄目だって」 …………………… どうやらかなりそおいう事に関しては厳しい家庭で育ったらしい。 「それじゃもちろん……」 「あ、当たり前でしょ!!」 うう〜〜〜む。 せっかくここまでこぎ付けたというのに…… 「言っときますけど、バレないだろうってのは甘いわよ。 ………あたしが言いつけ破ったとしたら、例え地の果てにいたって即お仕置きしに姉ちゃんが来るわ」 かなり大袈裟な話に聞こえたが。 心底おびえているリナの様子に、俺はひとまず諦めることにした。 ……その時は気がつかなかった。 自分が、命拾いした事に。 翌朝。 起きた俺はドアの下に差し込まれた封筒に気がついた。 何の気無しに拾い上げ、封を切ろうとして…… 「っ!!」 カミソリレターだった。 あやうく指を切るところだったが。 「誰だこんな……!?」 『初めましてガウリイ=ガブリエフさん。 昨晩は思いとどまられたようでなによりです。 ゼフィーリアにて、お待ちしていますわ。 リナの母 ローナ=インバース』 …………………… ちょっと待て。 何でこんな手紙が!? ここからゼフィーリアまではどんなに急いだって一月はかかる。 ひょっとして、リナのいたずらか? それなら分かる。俺に対する牽制という事だろう。 ………しかしそれならわざわざカミソリなんて仕掛けなくても良いと思うんだが……? いささか腑に落ちないものがあったのだが、とりあえずカミソリだけを外して俺は手紙をしまい込んだ。 それから、また俺達の旅は続いた。 ……何か、おかしい。 それはいつも俺に対してのみ向けられていた。 そう殺気が。 それも、俺がリナに近づくたびに『リナに近づくな』と言わんばかりに。 リナの肩を抱き寄せようとした時も、もっと深くリナの甘い唇を味わおうとした時も。 そして、 謎のカミソリレターがまた俺の元に届いた。 『こんにちはガウリイ=ガブリエフさん。 まだ貴方をリナの相手として認めた訳ではありません。 行動には良く注意された方がよろしいですよ? リナの姉 ルナ=インバース』 …………リナの姉って、あの『故郷の姉ちゃん』だよなぁ? 『娘に近づくな。 まだ貴様を認めたわけではない!! リナの父 フェリオ=インバース』 ゼフィーリアまでは、まだ遠かった…… 「ガウリイ?」 訝しげな声をリナがかけてきたのはそれから間もなくだった。 「どうしたのよ。最近、妙にキョロキョロしてるじゃない」 「そうか?」 「そうよ。 ………何か気になる事でもあるの?」 心配そうに俺の顔を覗きこむリナ。 ちょっと小首を傾げたその仕草は可愛くて堪らないものだったが、そう考えた瞬間俺の背に殺気が突き刺さった。 「ねぇ、あんた本気でおかしいわよ?」 「なぁリナ、お前さんの故郷って確かゼフィーリアだったよな?」 「???そうよ。だから今そこに向かってるんじゃない」 「お前さんの家族はそこにいるんだよな?」 「はぁ?」 リナは手を腰に当てて呆れたような声を出した。 「何当たり前のこと言ってるのよ。 前にも言ったけどうちの実家は商売してるのよ。そりゃあ仕入れとかで出かける事もあるけど、それだって他の国にまで出かける事は滅多に無いわ。 姉ちゃんはウェイトレスのバイトで忙しいし…… それでダークスターとの戦い、あたし達に回ってきたのもう忘れた……みたいね。 まぁそういうワケだから」 「ここにはいないって事だな?」 「あったりまえでしょーが!!」 ………………… じゃあ、あのカミソリレターは………? その晩のこと。 俺はこの状態に決着をつける事にした。 方法は簡単。 リナに夜這いをかける!! …今まで俺がリナに一定以上近づくと必ず突き刺さってきた殺気の主は、俺が夜リナの部屋に忍び込もうとすれば必ずやってくる。 そうしたら、二度と俺達に付き纏わない様にするだけだ。 そうすれば………念願のお楽しみタイムが俺のモノに!! もし現れなければ……それならそれで問題は無い。 俺は、意を決して斬妖剣を手に立ち上がった。 リナの部屋は俺の部屋の隣。 リナとお休みのキスを交わしてから数時間。すでに真夜中を過ぎきっている今、リナは熟睡中。 絶好の夜這いのタイミング! ……だが、やはり邪魔は現れた。 部屋を出るとすでに馴染み深い殺気が俺を出迎えた。その数三つ。 すぐ隣なのに、リナのいる部屋が物凄く遠くに感じる。 殺気の主の居場所は…… リナの部屋のドアに手をかける寸前、俺は廊下の奥に食事の時失敬しておいたナイフを投げた。 キンッ 極微かに金属のぶつかる音がして。 ギイィィィ…ッッン……! 俺の斬妖剣が弾き返されたナイフを断ち切った。 ウソだろ…… 俺の背を冷たい汗が滑り落ちていく。 廊下の奥の暗がりまで、そう長い距離がある訳ではない。せいぜい数メートルといったところだ。 しかも俺は予備動作無しでナイフを投げたのだ。それに反応しただけでも只者じゃないのにそれを正確に俺の喉元に向けて弾き返してきた。 ……今の一撃、普通なら避けようが無い。ってゆうか俺じゃなきゃ死んでるぞ今の狙いじゃあ。 俺の脳裏に、自分の死体が浮かび慌ててそれを頭から追い出す。 「誰だ」 俺の声に初めて相手が動いた。気配は……やはり三つ。 夜の闇の中から出てきたのは女性が二人に壮年の男性が一人。 「……初めまして?ガウリイ=ガブリエフさん……」 「今の動きはなかなかね。……まぁ、大事な妹を攫っていこうとしている男ならあのぐらい出来て当然かしら……?」 「娘はやらんぞ」 「あなたったらまた」 ………………… 栗色の髪に、濃い茶の瞳の男性。 金色に近い茶の髪に赤みがかった瞳の女性。 栗色の髪を肩で切りそろえた年若い女性。目は前髪で隠れているが、三人の中で最も強いプレッシャーを与えてくる。 闇の中から出てきたのはそんな三人だった。 ……まさか…… 「ダメですよ。結婚前の男女がイケナイ事しちゃぁ…ねぇ?」 にっこり笑って言ったのは赤みがかった瞳の女性だった。 「初めまして、ガウリイさん。私がリナの母ローナですわ」 「私がリナの姉、ルナよ」 「娘はやらん」 「もう!あなたったら口を開けばそればかり。ちゃんと挨拶ぐらいして下さいな?」 「痛っっっっっ!!分かった!分かったから抓るのは止めてくれローナ!」 呆然とする俺にルナと名乗った女性がにっこりと笑いかけた。 「今日は挨拶だけにしておきますね。 ………け・れ・ど。 きちんとした挨拶無しに大事な妹に手を出されるとどうおなりになるか…… 言う必要はありませんわね?」 口には友好的な笑みを浮かべているが、伝わる気配は完全にそれを否定している。 手を出したら斬る。 彼女の気配は俺にそう告げていた。 「それではおやすみなさいガブリエフさん。 さ、行きますよあなた」 「娘は、リナはやらんぞぉ〜〜〜〜っっ」 そうして。 リナの父親らしいその人は妻と娘に引きずられて、闇の奥に消えていった… 後に残されたのは、 呆然と佇む俺だけだった……… 「おっはよ〜ガウリイ♪ ……って、どうしたのよ朝っぱらから。何黄昏てるのよ??」 「ん? ……ああいや、何でも無い何でも無い。おはようリナ」 不審そうなリナにいつものように笑いかけ。 俺はリナの家の上下関係を知ったことをリナには告げずにいる事にした。 それからゼフィーリアに着くまでの間。 俺が両親とリナの姉に対する挨拶の練習に励むこととなったのは言うまでもなかった…… お届けしましたおまけ劇場。 らぶらぶな展開を期待された方、残念でした〜〜!! 実はひそかに監視(もとい)見守られていたリナちゃん。ノリはほとんど某良家の奥様。(すぺしゃる参照) ………あそこまでひどくないけど。 ルナの力で瞬間移動していると思っていただけると助かります。 それではここまで付き合って後悔なさった方も多いと思いますが。 有難う御座いました。(ぺこり) |