妹が嫁ぐ日







姉の気持ち 〜ルナ=インバースの日記より〜


 明日リナが式を挙げる。あの小さかったリナが。
 いつか私の手を離れて、誰かにあの子を預ける日が来るのは分かっていた。
 あの子を守ってくれるただ一人の人。あの子が自分の全てを委ねられる人。
 ………そんな人を見つけられるように。そう願って、あの子を世界に送り出した。


 赤竜の騎士、スィーフィード・ナイトとしてこの世に生を受けた私。その私の妹として生まれたリナ。
 あの子が生まれた日の事がつい昨日の事のように思えてくる。
 そう。
 あの日、母の腕に抱かれた生まれたばかりのあの子に初めて会った時に私が見たものは。
 金色の、闇。
 それが何を意味するのかは、受け継いだスィーフィードの記憶が教えてくれた。
 あの時の私はまだ幼かったが、妹の背負うものの大きさに慄然としたものだった。赤竜の騎士である事より、恐らく妹の背負わなければならないものは遥かに大きく重い。
 だから、私は誓った。
 この小さな妹を。私のたった一人の妹を、私の手で守るのだと……


 私はリナを鍛えてきた。いつかあの子が自分の背負うものと対面した時にそれに押しつぶされる事の無いように。
 だからリナが『魔法を習いたい』と言い出した時も、来るべき時が来たとしか思わなかった。
 魔法を習い始めたリナが、黒魔術を専門に選んだ時も。
 あの子の定めである『金色の闇』は、精霊魔法でも白魔法でも無いのだから当然である。
 ………ずっと傍に置いておきたかった。私の手でリナを守っていたかった。
 でもそれは出来ないこと。
 赤竜の騎士である私は、この世界の為ならば肉親の情すら捨てねばならないから。そして『金色の闇』の定めを持つリナは、もしかしたら私がこの手で殺さなければならなくなるかもしれない。
 だから、リナに言った。
「世界を見てきなさい」、と……


 リナは私がそう言った翌日、家を出た。


 いつしか、リナの噂に一人の男性が加わった。
 父はあまり良い顔をしなかったけれど、私や母は喜んだものだった。
 リナは、自分にとってたった一人の人と出会えたのだと。
 ……それは、小さな妹だったリナが一人の女性として成長した事を物語るもので。それこそが、私があの子に望んだ事で。
 何があっても、あの子の味方になってくれる人に出会えた事は私を安心させた。
 ……それでも、一抹の寂しさは否めなかった。


 リナが何年ぶりかに帰郷する数日前に届いた、差出人不明の一反の布。
 純白のその布を見た時、私は知った。
 とうとう、妹は完全に私達の元から巣立っていくのだと。


 明日はリナの結婚式。
 まさかセイルーンで、しかも王城の大神殿で式を挙げる事になるとはさすがに予想していなかったけど。
 今こうしていると、妹が遠くへ行くことがまるで夢の中の出来事のように思えてくる。
 ガウリイさんが、妹を大事にしてくれるのは分かっている。あの子も彼と一緒なら大丈夫だろう。
 今はただ、これからのあの子が幸せである事を祈るのみである。


 明日が良い日でありますように。