『スレイヤーズ高校』〜内緒☆〜







ピピピピピ……

「うにゃ?
 ………………………………。
 みゅぅ…!? うきょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?!?」

―――がばっ

AM6:30
あたしは文字通り飛び起きた。
―――と、いうのも……
「んふっふっ……(はぁと)」
今日はあたしとあいつの……その……へへっ……初デートなのだ(照)
あいつっていうのは―――ガウリイ=ガブリエフ先生。
あたしのクラスの担任で、体育と保健体育を受け持ってる教師なんだけど……
入学してから3年経ったってのに、不覚にも未だに見とれちゃうよーな文句なし
の美形で、女生徒のFanも多い。
だ・け・どっっ! その実体は寒天並の記憶力しかないクラゲだったりする。
で、あたしはそのガウリイ先生の教え子だったりするのだが……。
………………実は……あのね……えっと……付き合ってたりするのだ。これが。
―――本当はいけないんだってわかってる。わかってるんだけど……
机の上に置いてある写真に自然と目がいく。
修学旅行の時に撮った、アメリアとゼルと……そしてあいつと写ってる写真に。
「……だって……しかたないじゃない……」
気付いたら、いつの間にか……本気で好きになっちゃってたんだもん……。

軽く朝食を食べて部屋に戻ると、大急ぎでクローゼットを漁る。
あ…これにしよっかな〜〜♪
……でもちょっと子どもっぽいかな?
もうちょっと大人っぽくセクシーに……って……げっ!?
………………こっ…こりは………………(滝汗)
だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだめだめだめっっ!!!!!
この服だけは絶対だめっ!!
くっそ〜〜うまくこれが隠れるような服探さなきゃ……
―――ガサゴソガソゴソ…
気がつけばベッドの上には洋服が散乱してて、鏡の前で、いろんな服を着ては脱
いで、脱いでは着てる自分がいる。
べ・別に浮かれてるわけじゃないのよ?
あ〜〜んなクラゲのために……こ・の・あ・た・し・がっ!
お洒落なんかするわけないじゃないっっ!!
自分のためよ、じぶんのっ!
……えっと……この服の色からするとやっぱり……あ、でもこれに合う口紅の色
は……ってあいつ学校の先生なんてやってるせいか、あたしがお化粧とかすると
あんましいい顔しないのよねぇ……う〜〜ん………………あっこれにしよっ♪
―――結局、着ていく服とかが決まったのは、出掛ける時間の10分前だった。

待ち合わせは10:30に、学校の2駅先の駅前で。
途中、夏祭りの時の写真ができあがってるから取りに行って、15分前に待ち合わ
せ場所に到着。
ガウリイ先生は……っと……
「よっ! リナ♪」
「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?!?」
び・びっくりした〜〜〜あんたには気配ってもんがないのかっっ!?
「はっ早かったじゃないっ?」
「んっ? ……ああ。
 リナとの初めてのデートだろ?
 なんか嬉しくってさ♪」
……あ……ガウリイ先生も同じ気持ちだったのかな……?
「じゃ、行こっか♪」
そう言ってあたしの肩をさり気なく抱くガウリイ先生。
をいをい……誰かに見られたらどうする気よ?
ま、学校からこれだけ離れてれば誰にもみつからな……
―――ずざっ
あたしは思いっきり先生を突き飛ばし、駅前のポストに身を隠す。
「おいリナ……なんなんだよ急に?
 ……それにその格好、すごく怪しいぞ」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ離れてっっ!
 あそこに教務主任のワイザー先生がいんのよっ!?」
「なんで離れなきゃなんないんだぁ?」
「は・な・れ・て・ねっ(にっこり)」
「あ…ああ……」
―――5分後。ワイザー先生はタクシーに乗って去っていった。

その後も―――
映画を観ようと思ったら
「あら、時間には正確ですわね」
「オーホホホ!!
 ゾアメルグスターさまに誓って遅刻だけはしないように心掛けているのよ!」
クラスメートのメフィとマルチナが待ち合わせしてたみたいで、急遽予定変更。
どうしたもんかと考えてたら、ガウリイ先生が「それじゃあ遊園地に行くか?」
と、誘ってくれたのだが……隣のクラスのルーカスとイリーアがいて結局入れな
かった。
気晴らしにカラオケでも……とか思ってみれば、キャニーとレミーが順番待ちし
てて、店の入り口でそのまま回れ右。
なんとなく頭にきてゲームセンターに入ろうとしたら……
同じクラスのヴァルガーヴ発見!
……なんでこんなに出くわすわけっ!?
その度に壁に張り付いたポスターと同化したり、こそこそと路地裏入ったり……
あぁぁぁぁぁっっ楽しいデートのはずがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!
挙げ句の果てに、お昼に入ろうとしたレストランで……なんで…なんでっっアメ
リアとフィル校長、そして何故こいつがやってられるのか非常に不思議だが、美
術教師のナーガの3人が家族揃って食事なんてしてるわけぇぇぇぇぇっっ!?!?!?
!?!?
……ぜぇ…はぁっ…ぜぃ…はぁ……
こっ……これなら学校の方がまだ堂々と会ってられたような気が……

そして―――
「なぁリナ……
 オレたちなんで隠れたりしなきゃなんないんだぁ?」
―――ごめしっ
あたしは思いっきし電信柱に頭をぶつけた。
「なっなんでって…そりゃ〜〜」
先生と生徒だから、に決まってるでしょ〜〜〜がっっ!
そんなこともわからんのかっおまいはっっ!?
思わず懐に入れておいたスリッパに手をのばし……
「……リナ……」
ガウリイ先生の低い声と真面目な顔に動けなくなった。
「オレはリナと一緒にいられないんなら、教師なんて―――」
普段滅多に見せない真剣な表情で言いかけた言葉をあたしは遮る。
「―――辞めるなんて言わないでよね?
 あたし、高校……結構気に入ってるんだよ?」
学校に行けば、ガウリイ先生と会えるから……
―――くしゃり…
ガウリイ先生があたしの頭を優しく撫でる。
「本当はオレだって普通にデートとかしたいんだけどなぁ……。
 けど、そうだよな……学校に行けばリナに会えるもんなぁ……。
 でもオレはお前さんの担任で、一応教師だから……
 だから他の男みたいに街中で手をつなぐことも、一緒に歩いたり、
 こうやってデートしたりすることも簡単にはできない。
 だけどな、リナ……それでもお前には……
 リナにはオレと一緒にいてほしい」
最後の方は、ちょっと屈んであたしの目の位置に自分の目をしっかり合わせて言
ってくれた。
……うぁ……な・なんかめっちゃ恥ずかしいんですけど……
「なっなによっっ
 そ・それならあたしがどっか行かないように見張ってなさいよねっ!」
ちょっぴし喧嘩腰な言い方になっちゃったけど、きっとガウリイ先生なら……こ
れが照れ隠しだってわかるはず……。
ちらりとガウリイ先生の顔を見れば、優しく笑ってる……。
あたしきっと、今トマトより赤い顔してるんだろ〜なぁ……。

「とっところでさ、これから……どうする…の……?」
「んっ?
 ……そうだなぁ……リナ、どうするんだ?」
「ちっとは自分で考えんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
―――すぱこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!!!!!!!

……い…今までのムードが……(涙)
ま、まぁ別にいいんだけどっ!

結局、外にいると誰かにみつかりそうで落ち着かないため、ガウリイ先生の家に
行くことになった。

「映画館で映画観るはずだったんだけどなぁ……」
ちょっと残念そうにぼやくガウリイ先生。
そうよねぇ……それが先生の家でビデオ見てるんだもんねぇ……。
でも……あたしは結構嬉しかったりするのだ。実は。
だって―――ガウリイ先生の家、入れたんだもん♪
「ま、いっか……
 家でなら、こんなこともできるしなっ♪」
うにゃ?
えっ? えっ? えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!?!?!?
「ちょ・ちょっと!
 なっなにすんのよっ!?」
「なにって……
 映画館じゃリナを膝の上に乗せて映画見るなんてことできないだろ?」
そ・そりゃそ〜だけど……
「放せぇ〜〜〜っっ!!」
「やだ♪」
や…やだって……(滝汗)
―――ジタバタジタバタ
あたしが暴れると、ガウリイ先生の腕の力がぎゅぅっと強くなる。
「先生っっ!」
誰も見てないとはわかってるんだけど、恥ずかしいんだってばっ!
「先生ってばっ!!」
「……『ガウリイ』だ」
「へっ?」
いきなり何を言ってるんだ、この男は……?
「リナ……
 二人きりの時は『ガウリイ』って呼んでくれないか?」
「はぁっ?」
「呼んでくれなきゃ放さないからなっ♪」
―――ぎゅぅぅぅぅぅ…
あたしを抱き締める力がますます強くなる。
な・なんだか嫌な予感というか…身の危険をひしひしと感じるんですけど……
「わっわかったわよっ! 呼べばいいんでしょっ!!
 ……ぅ…ぃ……」
「んっ? 声が小さくて聞こえないぞぉ♪」
「〜〜〜〜〜っっ」
ものすごく楽しそうな声。
ちょっとっ! どさくさに紛れてどこ触ってんのよっ!!
「リ〜〜ナっ♪」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁっっ
 ガウリイガウリイガウリイガウリイガウリイっっ!!!!!
 ……これでいいでしょっ!?」
ほとんど怒鳴るように言い放つと、あたしはガウリイの腕から脱出する。
そのまま立ち上がり、逃げるようにリビングから出ると、一番手前にあった部屋
に駆け込んでドアを閉め、鍵をかける。
「お・おいリナっ!」
なんかガウリイが慌ててるけど、とりあえず無視っ!
ここで甘い顔をしちゃいけない。
このままだと今日も……
「ね…ガウリイ……」
あたしはドアに額を当てて、ドア越しにガウリイに呼びかける。
みゅぅ……いくら自分の身を護るためとはいえ……なんか恥ずかしいよぉ……
「……あたしのこと……ど・どう思ってる?」
「―――愛してる。
 誰よりも。何よりも。
 オレにとってリナは掛け替えのないほど大切だ」
うわ…即答されちゃったよ……きっぱりと……。
な…なんかすっごく嬉しいかも……って、ここで甘くしちゃいけないわ。
「じゃ、じゃあさ……
 あたしが『いい』って言うまで、その……手、出さないで……
 本当にあたしが大切なら」
ドアの向こうでガウリイが絶句してるのがわかる。
だけど…だけどね……
いくら体育教師だからって……元気すぎんのよあんたはっ!
……1回につき毎回最低でも第5ラウンドまで突入されたんじゃ、こっちの身が
もたないのよっ!
このままこんな生活を続けてたら……あたし、20歳を前にババアだわ!!
……そりゃ浮気されるよりマシだけど、さ……。
「や・約束してくれるまで、こっから出ないからっ!」
そう言って、あたしは目を閉じて後ろを向いて、ドアに背中を預ける。
ガウリイは何も言わない。
沈黙が部屋を支配する。
……そういえば…この部屋って何の部屋なんだろ……?
なんとなく浮かんだ疑問と好奇心に目を開けると―――
……ここって……ガウリイの寝室……?
そう、ベッドの上に脱ぎ散らかした服。
カレンダーには今日の日付に大きく丸印。
『リナと初デートv』とか書いてある。
そして―――
「……これ……」
ベッドの脇に、折り曲げられた写真が一枚。ケースに入れて飾ってある。
間違いない……アメリアとゼルが折り曲げられちゃって隠れてるけど……あたし
の部屋にあるのと同じ写真だ……。
「リナ……わかった。約束する」
ガウリイが漸く口を開いた。
「……本当に?」
「……ど・努力はしてみる……(滝汗)」
「ちゃんと約束して」
「……う゛っ……」
再びドアの向こうで何やら葛藤しているらしいガウリイが、なんか呻ってるみた
いだけど、今は放っておく。
あたしはゆっくりと写真の入ったケースに近づいた。
「……この写真の顔、あんまし気に入ってないのよね……」
そっと呟いて、行きがけに取りに行った夏祭りの写真を一枚抜き出す。
浴衣で写っている写真。当然あたし一人で写ってるやつだ。
くすっ…
「こっちの方が気に入ってるの」
こっそり写真をすり替えた時、ガウリイが降参した。
「わかったっ約束するっっだからっっ
 部屋ん中、見ないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!」
……たしかに……散らかってるもんねぇ(笑)。
「約束だからねっ♪」
あたしはゆっくりと鍵を外す。
夕ご飯くらい作ってあげようとか思いながら―――

そんなこんなで、あたしの初のデートは幕を下ろした。
なんかデートって感じじゃなかったけど……まぁ、しかたないよね。
暗くなっちゃったから、ちゃんと車で家まで送ってもらったけど。
ま、こんなデートもあり、かな……♪



おまけ(なんだろーか……?)

家に帰って、自分の部屋のあの写真を見て、ふと違和感を感じた。
「……なんでガウリイの写真ケース……あんなに汚れてたんだろう……?
 ………………………………まさか………………っっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

  「おはよう、リナ(はぁと)」
    ―――ぶちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……
         ―――1分経過―――
    ―――ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……
         ―――3分経過―――
    ―――ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……
         ―――5分経過―――
  「……はぁっ。
   今日も1日頑張るぞぉ♪」

……とかやってるんじゃあ………………?????
―――ぶるるっ
「……ま・まさかね………………(悪寒)」


―――真相は、ガウリイだけが知っている―――



おわり。