限 り あ る 時 間












わたしはあなたとともにありたい

たとえどれほどみじかくても







村の明かりが消える。
空には満天の星・・・・が、新月ゆえに辺りを見渡すことはできない。
そんななか、あたしとガウリイは泉に向かっていた。
なんでこんな真夜中に二人で歩いてるかというと・・・・・


あたしはあることが気になっていた。
頭にこびりついて、全然離れてくれない。
そこで、鬱憤晴らしに盗賊イジメでもと思ったら・・・・
アジトまでもう少し、というところで過保護者に捕まってしまった。
ガウリイはかなり不機嫌だった・・・・こういうときの説教は長い。
それだけは避けねば!!
そう思い、ついあたしは言ってしまった、
「泉に珍しいものがいるって言うから見に行くのよ」と。

案の定、ガウリイは付いて行くと言い出した。
それじゃ、盗賊いじめができないじゃない!!!
何とか振り切ろうとしたが・・・・・無駄だった(泣)
結局、泉に一緒に行くと言うことで話がついた。


あたしは悲しかった。
隣に目線を向けると、のほほんとしたガウリイが・・・

はぁ

見るんじゃなかった・・・・なんか頭を抱えたい気分に・・・・・
かなり小さな音だったが、ガウリイに聞こえてしまったらしい。
いつものように、デリカシーのないことを言い出した。
「リナがため息なんて・・・天変地異の前触れか?」
むかっ
「どういう意味よ!!」
「いや、おまえさんがそん・・・・・・わぁぁぁぁ!!!オレが悪かった!!」
あたしの目に宿る怒りに気づき、必死で謝り倒す。
だったら最初から言うなぁぁぁぁぁぁ!!!
叫びたかったが、やめた。
<こいつはずっとこのまんまだろうな>と、思ったから・・・

くすっ

我ながら的を射た考えに、思わず笑ってしまった。
そんなあたしを、ガウリイはきょとんとした顔で見ている。
その様子に、さらに笑みが深くなる。
まったく人の気も知らないで・・・・・
あたしの笑みは苦笑いに近かった。
そう、気がかりの元はこの鈍感甲斐性なし男だった。




・・・・1ヶ月前、わたしたちは大変な事件の渦中にいた
そのとき、気づいた・・・・・自分の気持ちに・・・・・

このあたしが、こんなクラゲに惚れるなんてね。
はじめは戸惑ったが、気持ちの整理はもうついた。

・・・悩んでいるのは別のこと・・・・終わったときに浮かんだ疑問
   あなたはわたしのことをどう思っているの・・・・

かなり難しい問いだ。
ガウリイは本心をめったに出さない。

想いに気づく前に聞いたことがあった。
「いつまで保護者してるの?」と・・・・ガウリイは「一生か?」と返した。
事件のさなか、あたしが意識を失っているときに、
「おまえのいるところは俺の側だ!!」とか言ったと共に戦った爆裂突進娘が教えてくれた。

だが、あれからだいぶ時が経ったのに何の変化もない。
それとなく聞いても、いつもうまくごまかされるし・・・・
単刀直入に聞けばいいのだろうが、そのせいで一緒にいられなくなったら・・・
あたしも弱くなったものである。

いったいあたしはどちらを信じればいいんだろう?
いつまでたっても答えはでなかった。




パァ

自分の考えに囚われていたあたしの瞳に光が映った。
え?
意識が現実に戻った。
が、どこにも光るモノはない。
なんで?・・・・もしかしてアレが・・・
注意深く耳を澄ますとかすかに水の音がする。
どうやら、知らぬ間に泉に着いたらしい。
急ぎ足で音のする方へ向かう。
そして息をのんだ。


そこには、幻想的な景色があった。
例えるなら、それは光の遊技。
小さな泉を起点に光が踊る。
たくさんのかすかな輝き、それがひとときの淀みもなく瞬く。
自然と足がそちらに向かう。

それにより舞い上がる、光の残像を残しながら・・・
夜空の星と重なり合い、また離れそして近づき・・・

あたしはしばしその光景に心を奪われた。




心が再び現実に戻った瞬間、あたしは光の正体がわかった。
そして輝きの意味も・・・・
何となくガウリイの顔が見たくなって後ろを向く。
ガウリイは地面に座り込み、ただ呆然とこちらを見ていた。
この様子だと、まだ上の空だろう。

  くすっ

さっきとは全く違う感情が生まれる。
近づき、隣に座る。
それを待っていたかのように、話しかけてきた。
「なぁ、リナ。これってなんなんだ?」
「蛍よ」
「もしかして、フェアリーソウルの別名に」
「な、なんであんたがそれを・・」
あたしは純粋に驚いた。
確かに、<ほたるもどき>って呼び名で使われてるけど・・・
常識皆無のガウリイが知っているとは・・・
「おまえ、オレをなんだと・・・」
「脳ミジンコの剣術馬鹿」
憮然と聞いてきたガウリイに、思ったまんまを返した。
あっ、めちゃくちゃ情けない顔してる。
ちょっと言い過ぎたか・・・・・・話を変えよう。

「蛍がどんなものか知ってる?」
それを聞いて急に表情が変わる。
「う〜ん、詳しくは・・・どいうもんなんだ?」
子供みたいな顔で聞いてくる。
素直というか、何というか・・・・これで年上なんて詐欺だわ。
でも、そんな顔を見せてくれるのが嬉しくて・・・・あたしもやきが回ったものね。
ちょっぴり赤い顔を気づかれないようにして、こたえを返す。

「蛍っていうのは、簡単にいうと昆虫の一種よ。」
「えっ、でもオレこんな虫見たことないぞ。」
「そりゃそうよ。あたしだって見たのは初めてよ。まぁ、生態が特殊だからね。」
「どう特殊なんだ?」
ガウリイに理解できるかなぁ?
まぁ、とりあえず言ってみるか。

「理由は2つあるわ。
 ひとつは水も空気もきれいなところにしか住めないせい。
 もうひとつは、夏のある一定の期間しか見れないから・・・」
「なんで見れないんだ?」
「蛍はその一生をほとんど地中で暮らすのよ。
 生まれて成虫になるまで約1年、外にいられるのは成虫の時だけ。
 けれど、その期間はたった20日間ほど。
 それが終わると死んでしまうのよ。卵だけ残してね。」
「つまり、たった一度遊ぶために長い間我慢するってことか?」
「う〜ん、簡単に言うとそういうことかな。」
ちょっと違うけどだいたい合ってる。
<遊ぶ>を<恋する>に変えれば正解なんだけど・・・そんなセリフあたしには言えない。
また少し赤くなった顔に四苦八苦しているうちに、何か思いついたらしい。
あたしに目線を合わせ語りだした。


「悲しい生き物だな。でも、たぶん幸せなんだろうな。」
え?
「なんでそう思うの?」
「望み通りに生きて・・・そのまま消えていくんだろ?
 たとえ少しの間でも、思うがままに生きれて・・・・長い間の我慢もそれに比べたら・・・
 それに幸せじゃなかったら、こんなに綺麗なはずないじゃないか。」
ガウリイは、今まで見たことのない顔をしていた。
寂しそうで、切なそうで・・・・でも熱いモノを秘めた、そんな・・・

あたしは、正直嬉しかった。
ガウリイも同じモノを見ていたから・・・・
あたしも感じたのだ。
あの輝きは喜びを示していると・・・・


今なら聞けるかもしれない。
この光景を見てると夢の中にいるみたいだし・・・

それに、あたしたちも蛍よりは長く生きるけれど永遠ではない。
なにより、いつまでも立ち止まってる・・・そんなのリナ・インバースじゃないしね
覚悟を決め、疑問を口にした。


「ガウリイ、いつまであたしと一緒にいるつもりなの?」


あのときとほぼ同じ質問……違いは保護者という言葉がないことをだけ
 ・・・・それが大きいのだけど

あたしはただガウリイの返事を待った。






 ・・・・・いつまでたってなにも返ってこなかった。

いくらなんでも何もなしというのはおかしい。
ん?まてよ・・・・・・・ま、まさかこのパターンは
おそるおそる横を向く。

  だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!やっぱりぃぃぃ!!!!!!

予感は的中した。
ガウリイはそのままの体勢で熟睡していた。


こいつはぁぁぁぁ!!!!
乙女の一大決心が無駄になっちゃったじゃない!
なんでこれまで同じなの・・・・だいたいほんとに寝てるのか?
いっつもタイミング良すぎである。
もう一度ガウリイを見る。
すぴょすぴょ気持ちよさそうに寝ている。
どう見てもタヌキにはみえない・・・・・考えすぎだったかな?

  はぁぁぁぁぁ

盛大にため息がでる。
こんなに幸せそうな顔をされたら怒る気も失せる。
まったく、こいつは、
「いい気なもんよね・・・・まっ、あんたらしいってとこかな。
 悔しいけど、あたしはそんなあんたがす」


えっ、今あたしなに言おうとした?
・・・・・な、なに口走っちゃってんのようぅぅ!!!
このあたしとしたことが、つい雰囲気に流されて
・・・・・まぁ、たぶんこんなときしか言えないけど
なぜか、たそがれたい気分になった。
けど、それはかなわなかった。
突然、腕を引っ張られた。

気づいたとき、あたしはガウリイの腕の中にいた。




な、なんなのこの急展開は・・・・あたしの頭は大混乱である。
そこにさらに追い打ちがかかった。
「リナ、続き聞かせてくれ。」
へ?それってどういう・・・・いかん、まだ立ち直ってない。
しっかりしろ、自分!!!
えっと・・・・あたしはガウリイに抱きしめられてる。
嬉しい
・・・・違う、論点が全然合ってない。落ち着け、あたし!!

すーはーすーは

深呼吸をして、気持ちを整える。
そして、再び状況の分析を始める。
ガウリイがあたしを引き寄せた。
声をかけてきたんだから、寝ぼけたわけではないんだろう。
つまり・・・・やっぱり寝たふりだったんかい!!!
こ、こいつ・・・・・・て、ちょっと待って・・・・あぁぁぁぁぁっぁあぁっぁぁ!!!!

あたしは茹だった。
たぶん、湯気もでてるだろう。
頭の中を<きかれた>という言葉が飛び交ってる。
そんなあたしの頬に手を当て、再び問いかける。
「なぁ、リナ教えてくれ。」
「いや」
そんなこと言えるわけないじゃない。
「どうして?」
悲しそうに聞いてくる。
ずるいよ、ガウリイ。そんな顔するなんて・・・・
「だって・・・・・あたしの方が先に聞いたのに・・・・」
なんとか言えない理由を作り出す。
いや、これも本音だった。
少しのためらいもなく、ガウリイは返してきた。
「前に言ったろ、一生だって」

  ボン

あたしの体温はたぶん40度を超えただろう。
なんとか動揺を抑え、聞き直す。
「あんた、どういうつもりでそんなこと言うのよ?」
「わからないか?」
「わかんない」
何も言わないくせに、どうやってわかれというんだ?
ガウリイは苦笑した。
「おまえって、ほんと鈍いな」
ため息まで混じっていた。
とことん、むかつくやつである。
なによ!あんただって人のこと言えないくせに!!
「ガウリイ!!いい加減離し」
言葉は出てこなかった。
怖いくらい真剣な顔が近づいてきたから・・・

そして唇が触れた。


ほんの一瞬だったが、あたしにはとても長く感じた。

「わかった?」
少しして、また問いかけてきた。
これで済ます気だろうけど、そうはいかない。
「全然わかんない」

べしっ

くすっ、思いっきり地面に突っ伏してる。
今のうちに・・・・あたしはガウリイから急いで離れた。
「リナ〜」
マジで、泣きそうである。
許したくなるが・・・・ここで甘い顔はできない。
指を突きつけ、言い放つ!!
「あんた、いきなり人にキスしといてなんにも言わない。
 それで通ると思ってんの!!」
こういうことはきちんとしないとね。
う〜ん、あたしわかったとたん思いっきり強気ね♪
が、あたしの優位もそこまでだった。

「そうだな・・・・愛してるよ、リナ。」

めったに見せない極上笑みを浮かべ、言い切った。
あたしは固まった。
笑みだけでもきついのに、今回は妖しい色気まで・・・
思考は完全に止まった。
その隙をガウリイは逃さなかった。
再び抱きしめ、そして・・・・意識がなくなるほどの甘いキス


あたしが気がついたときには、もう宿屋はすぐそこだった。
かなり長いこと放心していたようだ。
ガウリイの顔が間近にあった。
あたしが最初にしたこと、それは・・・・・ガウリイをスリッパでどつく!!
吹っ飛ぶ、ガウリイ。
あたしは軽やかに地面に降り立った。

「いきなりなにすんだ!」
いつものようにすぐに復活してきた。
ちっ、もうちょっと角度を鋭くすればよかった。
「乙女の柔肌に勝手に触れた報いよ!!!」
「せっかく運んでやったのに・・・」
「もとはと言えばあんたのせいでしょ!!!!」
こいつがあんなに・・・・・うっ、思い出してしまった。
くぅぅぅぅぅぅ、また顔が熱い。
そんなあたしを見てガウリイの機嫌は一発で直った。

にっこり笑顔で話し出す。
「まぁ、いいさ。それより、リナ・・・・あの言葉の続き教えてくれるよな?」
げっ!!・・・・やはし覚えてたか。
恥ずいので言いたくない。
けど、ガウリイは諦めそうにない・・・・・ふっ、この手でいくか♪
「わかったわ。一回しか言わないからね。」
「あぁ」
真剣な面もちでうなずく。
ちょっと、罪悪感が・・・・まぁ、気にしないでおこう。
あたしは言った。


「あたしはあんたのこと・・・・・酢の物だって思ってる。」

どごぐらがっしゃん!!!!!

ごつい音を立てて、ガウリイはこけた。
「だって、あんたクラゲでしょ」
クラゲって酢の物にするとおいしいのよね♪
かなりきついダメージを食らったようだが、なんとか起きあがってきた。
ガウリイは恨みがましい目でこちらを見る。
「リナ、いくらなんでもひどすぎるぞぉぉぉ」
声もかなり暗い。
ふっ、当然の報いってやつよ。
この一ヶ月間のあたしの苦しみに比べたらまだまだよ!!
「ちゃんと言って欲しかったら、しっかり精進することね!」
ガウリイは納得したのか、明るい声で返してきた。
「あぁ、頑張らせてもらうよ」
その言葉にあたしは笑顔で答えた。
ふっ、そう簡単に言ってやんないんだから覚悟なさい!!
なんて思いながら・・・・


あたしたちは、宿屋へ戻った。
胸に、あの光景を抱きながら・・・・




 ・・・・・わたしたちは、限られた時間のなかで生きている
   ・・・・・だからこそ、たいせつに抱きしめたい
     ・・・・・あなたと過ごすこの瞬間を

  ・・・・・共にみた、あのはかない輝きたちのように・・・・・




・・・あとがき・・・

もうしわけありませぇぇん、これでもかってほど遅くなりました。
 なのにできあがった話は・・・・・・がはっ
 読んでくださり、ありがとうございます(ダッシュで逃げ!!)