真 夏 の 怪

それは、ある蒸し暑い夏の夜のこと。 「あつ〜〜い〜〜。なんで、こんなに暑いのよ、今日は〜〜」 　窓が開けれない為に、サウナ状態になっている山小屋の中で、あたしはうだ りながら言った。 　あたしたちは、急に降り出した雨を避けて、たまたま見つけた山小屋に転が り込んでいた。 　そこは、恐らく炭焼き職人が、炭焼きの期間にだけ使っているものらしく、 ホントになんにもないとこで、あたしたち４人が雑魚寝するスペース分しかな い、こじんまりとした小屋であった。 　外は相変わらず、激しい雨が降り続けている。 　このぶんだと、間違い無くここで夜を明かすことになるんだろうな〜。 　しっかし、それにしても、 「あっついよ〜〜〜〜っっ」 「リナさんっ！修行が足りないですよ！ 　昔っから言うじゃないですか。心頭滅却すれば、火もまた涼しって」 　床にうつ伏せになってのびているあたしに向かって、アメリアが暑っ苦しい 台詞をポーズ付きではいた。 　や〜め〜て〜。 　部屋の温度が更に二度上がるじゃない〜。 「アメリア、あんたね〜、あたしは別にこんな暑苦しいとこで修行なんてする つもりはないのっ」 　あ〜、怒鳴ったら、また暑くなってきちゃったじゃないのよ〜。 「な〜、リナ。魔法でこの暑さってなんとかならないのか？」 　部屋の隅っこで、砂漠に置いてきぼりにされた白熊くん状態になっているガ ウリイが、同じ様にうだりながら、首だけをあたしの方に向けた。 　はっはっは。溶けてる、溶けてる。 「や〜よ。確かに魔法を使ったら暑いのはなんとかなるけど、そんなことして たら、あたしが眠れないじゃないの。 　ま、ゼルやアメリアが交代でかけてくれるってんならいいけどさ〜」 「・・・・おい、こら」 　反対側に座っていたゼルがあたしに非難の声をあげた。 　ふと、横を見ると、アメリアもジト目で何かいいたげな様子。 「あはははは・・・。やっぱ、ダメか」 「「ダメに決まってる（ます）！」」 　え〜ん。 　そんなに、声を揃えてまで抗議しなくたっていいじゃんか〜。 　リナちゃん、悲しいっ。 「まったく、いい性格してるな〜、お前」 　ふ、ふんっだ。 　呆れ顔のゼルは放っとくとして、この暑さを何とかしないと、このままだと ホントに眠れないじゃないのよ。 　う〜みゅ。 　何か、ないかな〜。 「リナさん、いい方法がありますっ！ 　夏の暑さもあっという間に感じなくなるのは、間違いなし！！」 「え！？何、アメリア。あんた、この暑さを何とか出来んの？」 　突然、立ち上がったアメリアに、あたしだけじゃなく、ガウリイまでも期待 の眼差しを向ける。 「ホントに何とか出来るのか、アメリア？」 　───こら、ゼル。 　人が期待してんのに、そーゆーつっこみを入れんじゃないっ。 「はいっ、もちろんです」 　だ〜か〜ら〜、ポーズはいらんって。 「んで、具体的には何をするのよ？」 「カイダンです」 　は？ 　カイダンってゆ〜と、 「あの、昇り降りするやつか？」 　のっけからボケるガウリイ。 「それは、階段」 　お約束のつっこみを入れておく。 「んじゃあ、話し合うこととか・・・」 「それは、会談！」 「じゃあ、え〜っと・・・」 「考えるな〜〜っっ！！」 　スパーーーンッッ。 　あたしのスリッパ攻撃がガウリイの後頭部にクリーンヒット！ 「・・・リナひゃん、今のはちょっと痛ひ・・・」 　ちょっぴり、上目遣いにあたしを見るガウリイ。 　ええい。泣くんじゃないっ。 　その横では、ぼそっとゼルが一言、 「───布を切ること」 　・・・・えっと・・・もしもし？・・・・ 「あの〜、ゼルガディスさん。もしかして、それって、裁断のことですか？」 　顔を赤らめるゼル。 　図星かーーーーっ！！ 　しかも、赤面するくらいなら、言うじゃなーーーっっいい。 　────まったく、どいつもこいつも。 「で？アメリア。怪談って、恐い話をするってことよね。 　───まさか、恐さで夏の暑さもぶっとばせってベタなことを言うんじゃな いでしょうね〜」 「その通りです！ 　───夏の夜に怪談！まさにこれこそ夏の風物詩！怪談をせずして、夏を語 るべからず！！」 　い、いや。そう、言い切られても・・・。 　って、その間にも更に、『夏と怪談』の密着性について語り続けてるし。 　しかも、本人、暑さを感じてるようには見えない。 　ある意味、アメリアって最強かもしれん・・・、ははは。 「いいんじゃないか、どうせ、このままだと眠れそうにもないんだし」 　もしもーし、ガウリイくん？ 「あんた、なに言って・・・」 「そうだな。やらないよりはマシかもな」 　って、ゼルまで！ 「あ、あのね〜っ。そんなことして、暑さがなくなるわけないでしょっ」 　まったく、ふたりして、何アメリアに同意してんだか。 　────ん？ 　ちょっと、ちょっと。おふたりさん？ 　何よ。その目はっ。 　しかもガウリイっ、何笑ってるのよっ。 「もしかして、リナ、恐いのか〜？」 「なっ！！」 「そうだよな〜。そんなことないよな〜。まさか、リナともあろうものが、お 化けが恐いなんてことは、ないよな〜」 　hっ。 「そ、そんなこと、あるわけないじゃない。やだな〜、ガウリイってば〜」 「リナさん、顔引きつってますよー」 　────ぐぅわしっっ。 「ふっふっふ。ア〜メ〜リ〜ア？誰の顔が引きつってるって〜？」 　右腕をアメリアの首に回して、反対の手で頬をぺしぺしと軽く叩く。 「恐いです〜。リナさ〜ん」 　余計なことを言おうとした、あんたが悪いっ。 「じゃあ、怪談、決定な」 「なっ、何、勝手に決めてるのよ、ガウリイっ」 「だって、恐くないんだろ？ 　だったら、いいじゃないか、暇つぶしになるんだし」 「そ、それは・・・」 「だったら、決定」 　h〜〜〜。 　いつになく、強引なヤツ。 「それじゃあ、一番手は誰からにします？」 　ぴしっと右手を挙げて、嬉しそうな顔でアメリアが言う。 　ああ〜。なし崩しに決まってしまってるし〜。 　実は、苦手なんだけどな〜、恐い話って。 　でも、そんなことを言ったら、思いっきり笑い飛ばされるだろうしな。 　こうなったら、腹を決めてやるしかないか。 「アメリア、あんたからやりなさいよ〜。言い出した張本人なんだから」 「はい！では、一番。アメリア、いきます！」 　・・・・何故に、そんなに張り切る・・・。 「・・・これは、お城に出入りをしていた旅商人が話してくれたんですけ ど・・・。 　知り合いの乗り合い馬車の御者をしている男の話だそうです。 　その人が、今日のように蒸し暑い夜、急ぎの用事を終えて自分の家に帰ろう と馬車を走らせていたんですって。 　その道中、綺麗な女の人が道を歩いているのを見かけて、慌てて馬車を停め たんですよ。 　なんでこんな時間にこんなとこを女の人がひとりで歩いてるのかって不審に は思ったらしいのですが、このままほっとくのも寝覚めが悪いんで、馬車に乗 せてあげることにしたんです。ちょうど、方向が同じだったってのもあったん ですけどね。 　それで、しばらく馬車を走らせていたんですけど、ふと、ひやっとしたもの を首筋に感じて、馬車の中を覗きこんだんです。 　そしたら・・・・」 　ごくん。 「────そしたら、座っていたはずの女の人の姿はなく、座っていた辺りが ぐっしょりと濡れていたんですって」 　ひええええええ〜〜〜〜。 　その女の人って、もしかして、もしかしてえええええっっ。 　・・・・い・・・いや、考えないことにしよう・・・・・ 　あたしが自分の想像に身震いしたその時、 　────・・・・ぴちょん・・・ 「うぎょわああああああっっっ！！！！」 「なっ、なんだっっ！？いきなり、なんて声を出すんだ、リナ！！」 「だだだっだってっ、い、今、あたしの首筋に、何かがっっっ」 「・・・・何もないぞ」 「ええ！？だ、だって、確かに・・・」 　首筋にひんやりとしたものが落ちてきたような・・・。 　自分でそこを触ってみる。 　ぬ・・・濡れてる・・・・ 「ほ、ほらっっ。濡れてるでしょっ。 　これって、もしかして・・・・お化け・・・？」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・ぷっ」 　・・・あによ。 　何、笑ってんのよ、ガウリイっ。 　しかも、ゼルやアメリアまで〜〜〜〜。 　だって、恐いものは、恐いんだから、仕方ないじゃないの〜〜。 「・・・・だああああああっっ、もーいいっ。 　───ほらっ、次は誰がするのっ。さっさと次っっ！！」 　いつまでも、肩を震わせてまで笑うんじゃなあああああいっっ！！ 　hhhh。 　なんか、くやしいぞ〜。 「くっくっくっく・・・・じゃ、じゃあ、次はオレが話そうか？」 　ま〜だ、笑うか、おまいはあああああ。 　後で絶対、仕返ししちゃるうううっっ、ガウリイっっっ。 「好きにすればあ！！！」 「くっくっく・・・。それじゃ、始めるぞ〜。 　────この話はな。オレのじいさんが、ひいじいさんから聞いたって話な んだが・・・・・」 　それから、ガウリイのじいさんだか、ひいじいさんだかの話が始まり、その 次にゼル。そして、あたしと、次々に怪談は進んでいった。 　追記として、あたしの話は誰も怖がってはいなかったことを記しておく。 　やはり、郷里のねーちゃんの話では、怪談ネタにはならなかったか・・・。 　結局、あたしの首筋に突然落ちてきた水滴────ガウリイは、ただの雨漏 りだろうって言ってたけど────は、謎のままである。 　いつの間にか、夜も更けてきてるし、これではますます怪談日和って感じが するんだけど・・・・。 　いったい、いつまで続ける気なんだ、こんなことおおおお！！！ 　もう、暑くっても文句言わないから、やめよ〜よ〜。 「────・・・・というわけで、その男の人は血まみれになりながら、去っ ていったのです」 　ぞわぞわぞわあああ。 　何が恐いって、アメリアの話し方かもしれない。 　わざわざ、声を低くして、ぼそぼそした感じで喋るもんだから、嫌でも雰囲 気が出るし。 　────意外な才能かもしれない・・・・ヤな才能だけど。 「さあ、次はガウリイさんの番ですよ」 「う〜ん。そうだなあ。次は何を話そうか？」 　何故かこちらをちらりと見て、嬉しそうにしながら言うガウリイ。 　うぬぬぬぬぬ。 　絶対にわざとだっ。 　あたしが怖がってるのを知っててやってるんだ、ガウリイはっ。 　更に言うなら、始めは暑さの為もあって、４人ともそれぞれ部屋の隅の方に 散らばって座ってたはずだったのに、いつの間にか真ん中あたりに固まってて、 何故かガウリイが真横にいたりする。 　もしかして、こいつってば、恐い話に怯えてるあたしを見て、しっかりと楽 しんでないかあ？ 　とりあえず、あたしがガウリイの服を実はしっかりと握っているのは、別に 誰かの陰謀にハマっているからじゃない。 　これもすべて恐いからだっ。 　他意なんてないんだからっっ。 　でも、冗談じゃなく、このままこんな話を続けててたら、服を握りしめてる だけじゃ済まなくなりそうかも〜〜〜。 　そうなったら、絶対に後で皆に後々まで笑われ続けるっ。 　それだけは回避しなきゃっ。 　それにはやはり・・・・ 「ね、ねえ。もう暑くなくなったと思わないっ？ 　だから、怪談なんかやめて、さっさと寝ちゃうってのはどうかなっ」 「暑い暑いって言ってたのって、お前じゃなかったっけ？ 　まだ、結構蒸し暑いと思うぞ。ホントにこの中で寝れるのか？ 　まだまだ、涼しさが足りないと思うんだけどなあ」 　にやにやしながら、そんなこというなああああっっ。 　こんな話ばっかしてて、あたしが幽霊に取り殺されちゃったりしたら、絶対 にガウリイを呪ってやるうううう。 「ははは。冗談、冗談。仕方ないからこのへんでお開きにするか。 　アメリアもゼルもいいよな、それで？」 　ガウリイがポンポンとあたしの頭に手を置きながら言う。 　hううう。 　子供じゃないんだから、ポンポンするなああ。 　・・・・でも、怪談をやめにしてくれることには感謝するけど。 「私はいいですよ。ねっ、ゼルガディスさんもいいですよね」 「おれは旦那がそれでいいんなら、いいぜ」 「よかったな、リナ♪」 「あ、あたしは別に・・・・」 「まあ、そういうことにしておくか」 　────完全にお見通しらしい。 　あ〜、もうっ、ホントに悔しいっっ。 　でも・・・・あれ？・・・・何か忘れてない・・・・？ 　・・・・・思い出せないけど、何か引っ掛かるような・・・・ 　────・・・・ぽちゃん・・・ 　突然、またもやさっきと同じ場所に、冷たい感触。 　恐る恐る手で首筋を触れてみる。 　・・・・・また、濡れてるううううううっっっ！！！ 「み、み、みっ、水っ、みずううううう！！！」 　ばきっっ！！！！ 　あたしが叫んだのとほぼ同時に、天井から物凄い音と共に何か黒いものが落 ちてきた。 　な、何よっ、今のはっ！？ 　目の前に落ちてきた黒い固まりは・・・・ 「ゼ、ゼロス！！？」 「なんで、こんなとこにこいつが・・・？」 　ゼルの言う通り、なんで、パシリ魔族もとい生ゴミゼロスがこんなとこ に・・・しかも、何故天井から降ってくる・・・！？ 「なんで、あんたがそんなとこから降ってくるのかしらねえええええ」 「あ・・・い、いや・・・その〜・・・ははは・・・」 「はははじゃなあああああいっっ！！！」 　乾いた笑いで、目を宙に踊らせてるゼロスの首を両手で掴んで、そのまま前 後に振り回す。 「リ、リナさん、さすがにそれじゃあ、しゃべれないと思うんですけ ど・・・・」 　ええいっ、止めるな、アメリアっ！ 　ぶんぶんぶん・・・・ 　気が済むまで振り回して、ようやくゼロスを解放。 「お〜い。生きてるか〜？」 　つんつん。 　ガウリイがどこからともなく取り出した小枝の先でゼロスをつついた。 　・・・・おまいは、とどめをさしてど〜する・・・ 「いやあ、危うく死んじゃうかと思いましたよ」 　いつの間に回復したのか、ゼロスがにこやかに微笑みながら、うそぶいた。 「───んで？なんで、天井裏なんかにいたのかの説明をする気になったのか しら？」 「それは、もちろん・・・・」 　お決まりの人さし指を口元に当てるポーズをとり、 「秘密です」 　この、生ごみ魔族はああああっっっ 「───おおかたリナの恐怖の感情につられて、のこのこ現れたんだろう。 　どうせ、さっきからリナのとこだけに降って来る雨漏りもお前の仕業だろう」 　ふるふるとゼロスへの怒りに燃えるあたしにゼルが淡々とした口調で言った。 　ゼロスはと見ると、少し右頬のあたりをひくひくさせて引きつった笑みを浮 かべてる。 「ゼ〜ロ〜ス〜？やっぱり、あれはあんたの仕業だったのねええええ？」 　あたしの怒りのオーラに押されたかのように、ゼロスが後ろへと後ずさる。 「ふっふっふ。逃がしはしないわよ〜〜〜」 「リ、リナさんっ。落ち着いてくださいよおおお」 「問答無用！！」 　口の中で唱えていた呪文をゼロスへ向けて解き放つ。 「竜破斬っっ！！！」 　どうごおおおおおおおんっっっ！ 　爆音と共に、周りが全て爆風と砂煙りに包まれた。 　もちろん、あたしたちがいた山小屋も例外ではない。 「リナさああん、あたしたちが寝る山小屋まで壊しちゃってど〜するんです か！？」 　あたしの真後ろにいて、呪文の影響から逃れていたアメリアが抗議の声をあ げる。 　・・・・しまった。 　ちょっと、怒りに我を忘れて、やり過ぎたかも・・・ 　だんだん、砂煙りも治まってきて、周りの景色がはっきりとしてくる。 　ゼロスの姿が見えないってことは、ちゃっかりと逃げ出したらしい。 　おにょれ、ゼロスっ。 　今度、会ったときには、覚えてらっしゃいよっ。 「山小屋どころか、森も消えたな」 　ゼルが溜め息まじりにあたしに言う。 　ううううう。 　反省してるってばああ。 「雨もまた降ってきたみたいだしな」 　ガウリイまで、ジト目でこっちに無言の抗議をする。 　も、もしかして、皆さん、御立腹・・・・？ 　あ、はははははは・・・・ 「えっと・・・涼しくなったってことで・・・・結果オーライ・・・とか」 「「「なるかあああああっっっ！！！」」」 　皆の叫び声が焦土と化した森に響き渡った。 　後日談として、周辺の街では突然、原因不明で消えた森についての噂が、し ばらくの間、まことしやかに囁かれていたのだった。 　もちろん、本当の原因は誰も知らない。 　あれ以来、皆からはしばらくの間、『竜破斬禁止令』が出されたことを余談 として言っておく。 　────教訓。 　『過ぎたるは及ばざるがごとし』（過ぎたことは気にしないでねっ♪）

あうあうあぅぅぅっっっ砂由良様ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ ありがとうございました〜〜〜〜っっ くすくすくす････怪談。いいっすねぇっ しかもオールキャラでっ最高！！！ ガウリイの含みがまたっっっイイっ良すぎるぅぅぅっっっっ 女神降臨〜のお礼にこんな素晴らしい小説を頂けるなんてっっ う゛う゛う゛っごめんなさいです･･･女神･･滞ってしまって････ 飛鳥も砂由良様を見習って一生懸命書きます！！！